望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

新型コロナと陰謀論

 世界には、新型コロナウイルスの危険性は誇張されていると主張する人々がいる。実際に感染者や死者は世界で増え続けていると報じられるが、PCR検査でウイルスの増殖回数を増やし感度を過剰に上げて感染者数を増大させているとか、コロナ以外の持病などで死んだ人も死因をコロナ感染にして処理しているなどと、感染者数や死者数の増加にはカラクリがあるとする。

 こうした具体的な指摘に対しては、事実を明らかにするしか対処法はない。データなどを示さず一方的な主張で反論しても、どちらの主張が「正しい」のか第三者には判断できない。データなどによって事実を重視した議論ならば現実から大きく乖離する危険は少ないだろう。だが、断片的な事実をつなぎ合わせて作る陰謀論では、データなどの検証よりも、いかに人々の心情に訴えるかが大事になる。

 陰謀論にはいろいろあって、▽ビル・ゲイツ氏がワクチン販売による収益を求めてウイルスを拡散させた▽ビル・ゲイツ氏がワクチンとともに人々にマイクロチップを埋め込もうと狙っている▽新型コロナは存在せず、パンデミックは政府とメディアが仕組んだ▽新型コロナは5Gシステムによるもの▽新型コロナは中国で開発された生物兵器▽ウイルスは中国の武漢の生物研究所から流出したーなど賑やかだ。

 陰謀論の効用は、世の中を理解することが簡単になることだ。事実の解釈を事実そのものよりも優先させ、あるストーリーを作り上げ、次には、そのストーリーに合わせて世の中の出来事を解釈する。陰謀論に「感染」するとおそらく、一連の出来事が都合よく並べられ、混沌とした世界がクッキリした輪郭めいたものがある世界に見えるだろう。

 思い込みや即断で、事実の解釈を事実そのものより優先させる人は珍しくなく、程度の差はあれ誰でもやっている。確証がなくても何かを誰かの責任と決めつけたりすることも日常にはよくあることだ。小さな陰謀論にまみれて人々は暮らしていて、世界で起きている出来事を理解したいとの願望があるから、大きな陰謀論が広がる土壌があるのかもしれない。

 大きな陰謀論に感化されることを防ぐには、陰謀論を眺める対象にするのがいい。ツッコミどころはいろいろあるのが陰謀論なので、例えば「地球人の絶滅を謀る宇宙人がウイルスをばら撒いた」という説があれば、「絶滅が目的なら、感染力が強く致死率が高いウイルスをばら撒くはずじゃないか」などと笑う。大ボラ話を聞いて大笑いするつもりで接するのが陰謀論には似合っている。

 新型コロナウイルスの感染拡大で各国は揃って大きな経済的打撃を受けた。大きな経済的打撃に見合う利益とは何かを各種の陰謀論は説明することができていない。刑事物のドラマでは、事件により受益する人がまず疑われるが、新型コロナウイルスの感染拡大で利益を得たのはリモートワーク関係やヘルスケア関係などだから、彼らがウイルスを拡散させたという陰謀論がそのうち現れるかな。