望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

相手の論理を使う

 自分の考えを主張することは簡単で、誰もが日常的に行っている。誰にも言い分があるので、互いに譲らず、互いに言いっ放しになることも珍しくはない。自分の考えを主張したことで満足できるなら、言いっ放しでも構わないだろうが、自分の主張を理解してもらいたい場合、相手を説得しなければならない。

 相手を説得するために必要なのは、第一に、相手と自分の考えの相違点を明確にする。相違点が、考えの主要な部分であるか細部であるかによって説得の困難さは異なる。相違点を明確にすることは、考えを共有できる部分を明確にすることでもあり、共有できる部分を互いに意識することは協調性へとつながる。

 第二に、自分の主張を相手がどう見ているかを推量する。自分の主張を相手が受け入れないのは、自分の主張を①相手が理解していない、②理解したうえで反対する、③理解しようとしない、に大別される。①②は説得のための話し合いを続けることができようが、③の相手に対して対話を続けるのは無駄かもしれない。

 また、自分の主張よりも説明の仕方(論理の展開)が相手に受け入れられない場合がある。論文なら精緻な論理の展開を行うこともできようが、話し合いにおいて、時間を要する精緻な論理の展開を相手が黙って聞いていてくれるとは限らない。むしろ、苛立って相手が自分の主張を始めたりする。

 説明の仕方(論理の展開)とは、明らかになっている事実や客観的に正しいとされる認識などを積み重ねていくこと。明らかになっている事実をめぐって議論になるのは、自分の主張に都合がいい事実だけを強調し、自分の主張に不都合な事実は無視することがあるからだ。自説に都合のいい事実だけで構築されている論は珍しくない。

 説明の仕方(論理の展開)には個人差があるとともに、社会的に自明とされる要素については説明を省いたりする。社会的に自明とされる要素とは、倫理観や社会規範、宗教、歴史観、慣習など、その人が属する社会的な通念の複合により形成される。だから、異なる社会に属する人は異なる説明の仕方(論理の展開)を用いる。

 自分の主張を相手に理解させ、納得させ、支持を得ようとする時には、自分の主張を自分の説明の仕方(論理の展開)を使って行うのが一般的だろう。それで同じ社会に属する相手に対しては細かな説明を省くことができるが、異なる社会に属する相手には説明不足となることがあり、論理の飛躍があるなどと受け止められたりする。

 異なる社会に属する相手に対しては、自分の主張を相手の説明の仕方(論理の展開)を使って説明することが効果的だろう。それは容易なことではないが、例えば、外交などのように国際社会で広く理解を得ることが必要な場合には、国際社会で行われる説明の仕方(論理の展開)を使って日本の主張を説明し、理解や支持を得ることが必要になる。