望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

労働力がやって来る

 世界で現在、非合法の移民の主な目的地は欧州と米国だ。欧州へは地中海経由でアフリカから人々が押し寄せ、米国へは中米経由で中南米の人々が押し寄せている。米国は国境の管理を厳しくして受け入れを拒否する構えだが、欧州は拒否する構えではあるものの地中海に壁は構築できず、非合法の移民を止めることができていない。

 欧州は最初の受け入れ国に難民・移民管理の責任があるとするが、それはイタリアなど地中海に面する国々に負担を押し付ける。難民を政府が崩壊したままのリビアに送り返して放り出すこともできず、人権問題として援助する民間団体もあり、非合法移民は押しかける。そして難民認定を得た人々は欧州各国に散らばっていく。

 ドイツは2015年、中東などからの難民を約80万人受け入れ、その後も含め100万人以上に達したという。社会に人道主義的な高揚感もあって受け入れが容認されたというが、経済界からは労働人口の確保のために好都合だと歓迎する声もあったという。ドイツは高齢化と労働年齢人口の減少に直面していた。

 このためドイツで、経済界などは企業の人手不足解消には多くの移民が必要とし、アルトマイヤー経済相は「他の国が移民規制を強化するなか、ドイツは新たな移民法によって競争力が高まる。経済成長率押し上げ効果も見込まれる」としたそうだ。

 新たな移民法では、EU域外から高技能移民を受け入れ、ドイツ語が話せて専門的な資格がある人材は、ドイツに入国して6カ月間職探しをできるようにする。これは、EU諸国も少子化傾向で労働年齢人口が減少しているので、他のEU諸国からの移民だけでは人手不足をカバーできないと見ているからだろう。

 迫害を受けたり、戦争や紛争などのため出身国を離れた人々を難民と国連は定義し、出身国を離れて他国に定住した人々や他国に定住しようとする人々が移民とみなされる(国際的な定義はない)。労働力として期待する側にとっては、移民でも難民でも構わないだろう。専門的人材とは必ずしも高度技術者を意味するわけではなく、労働力不足は高度な専門職だけで起きているわけでもない。

 奴隷制は古代社会に広く存在し、近代でも南北アメリカや植民地などのプランテーションで存在したとされる。奴隷制プランテーションが許容される時代ではなくなったが、企業(資本)にとって労働力を確保する重要性は変わっていない。難民であれ移民であれ、労働力が自ら移動してくる状況は歓迎だろう。企業(資本)はもう奴隷もプランテーションも持てない建前なのだから。