望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





金が切れても縁は切れない

 「金の切れ目が縁の切れ目」となるのは個人間ではそう珍しいものではないが、国家間の関係においても珍しいことではない。個人間では、わだかまりを相互に抱えたまま関係が疎遠になるだけにとどまらず、批判し合う関係になったりもするので“縁の後始末”は厄介だ。国家間では「金の切れ目」になったなら、様々な批判の応酬が様々な対立を惹起させることにもなる。



 そうした例が2014年のウクライナだ。経済の停滞が続き、政府債務が700億ドルを超え、対外債務は1400億ドルでGDPの8割にもなり、当面の2年間で必要な支援額は350億ドルといい、経済破綻が取沙汰されてきた同国。輸出依存の経済構造だが、主要輸出品の価格は上がらず、一方でエネルギー輸入価格が上がるとあって、どこかから資金を借りることが必要だ。



 前年、当時のヤヌコーヴィチ政権はEUに、150億ドルの資金援助を毎年続けてくれれば提携協定に署名すると提案したが、そんな金を出す余裕はEUにはなかった。それでヤヌコーヴィチ政権は、EUとの提携協定を諦めれば年150億ドルの資金援助と天然ガス代金の値引きをすると提案したロシアの話に乗った。



 ところが、EUへの“道”が閉ざされたと親欧米派による反政府活動が活発化し、ヤヌコーヴィチは追い出され、暫定政権樹立に至ったのだが、暫定政権は親欧米・反ロシアなので、ロシアは150億ドルの資金援助を凍結した(1回目の支払い分30億ドルは提供済み)。で、ウクライナには金がない。ウクライナの暫定政権が頼りにするのは欧米しかなくなったが、EUは5億ドルの援助を提示し、米は10億ドルの政府保証を決めただけ。

 欧米ともにウクライナに援助をする経済的余裕はないことが明らかになり、残るはIMFだけ。そのIMFは150億ドルの支援をすると伝えられるが、IMFからの財政支援には大規模な財政緊縮が伴う。ウクライナ議会が可決した財政緊縮法案には、ガス料金の値上げ、国家公務員の削減、所得税累進課税制導入、最低賃金の引き上げ凍結などが含まれ、人々の“痛み”はけっこう大きそうだ。



 ウクライナを欧米で取り合っているような印象をマスコミ報道は振りまいたが、欧米に本当にウクライナを取り込む意思があったのならば、前年段階でウクライナへの資金援助を行っていれば、流血を見ることもなく、ロシアを“増長”させることもなかったはず。資金を出すことを渋った欧米が、資金提供に釣られてウクライナがロシアになびくと、あわててウクライナを欧米側につなぎ止めようとしたが、出せる資金はしょぼい。



 ウクライナ国内における民族対立が解説され、ロシアの軍事行動の詳細が報じられ、さらには、ロシア帝国主義の復活と強調されるなど、ウクライナをめぐってマスコミには様々な言説が溢れているが、いずれも2次的に派生した現象であり、その解釈でしかない。根本にあるのはウクライナの経済的な困窮。欧米は「金が切れても」ウクライナとの「縁」を切らないことにしたのだが、トバッチリで苦しむのはウクライナの人々。