望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

難民というより移住か

 アフリカ大陸の北岸にあるリビアから、EU入りを狙う移民や難民を“満載”した密航船がイタリアに向かうことが続いている。出航地のリビアにEUが乗り込んで、海岸線を直接管理できれば、密航船の出航を阻止することもできようが、リビアはEU外の国であるため、EU側の対策は洋上が主体にならざるを得ない。

 対策といっても、密航船の数は多く、劣悪な密航船に詰め込まれた人々は洋上では生命の危険もあるため、EU側が救助を余儀なくされたりする。沈没した密航船の船倉に取り残された人も多いとされ、どれほどの人が亡くなったのかは分からない。

 国連の推定では2015年8月末で、欧州に到着した同年の移民・難民は30万人を超え、海上での事故などで死亡した人は2500人という。8月で2500人だから、平均すると月300人以上が地中海で亡くなっている。もちろん、この人数は欧州側が把握した人数だろうから、亡くなった人の実数はもっと多いだろう。詰め込まれた密航船から転落したりして、行方不明になったままの人がどれだけいるのか。

 EU側が多少の対策を講じたところで、欧州を目指す移民・難民の数は減らない。内戦などによる治安崩壊で様々な暴力に直面して暮らすなら、危険を覚悟で地中海を渡り、警戒網をかいくぐって欧州に「移住」したほうがいいだろうと、地中海のリビア寄りにあるイタリア領の島を目指したり、実質的な財政破綻状態で海岸線の警戒に予算が回らないギリシャを目指す。

 イタリアやギリシャはEUへの入口で、そこから難民・移民は北上してドイツやイギリス、北欧諸国を目指す。各国も警戒態勢を強化しているので、EU内の移動は密やかに行わなければならず、危険を伴うこともある。

 人数が増えすぎると、そう秘かにもしていられなくなる。英仏海峡トンネルのフランス側の入り口付近には英国入りを目指す移民が多数集まり、英国に向かうトラックに飛び乗ろうとしたり、英国へ渡ろうとトンネルへの侵入を図ったりしていると報じられた。

 現世人類の祖先は数万年前にアフリカから出て世界に散らばった。やがて国境ができ、ある国境の内側では安全で豊かな生活ができ、ある国境の内側では貧困、暴力、腐敗などが蔓延する社会ができた。欧州諸国は国境を自分たちで決めたが、中東やアフリカでは国境は欧州諸国が決めたものだ。そんな欧州諸国の旧植民地で暮らす人々が、国境を無視するように移動し始めたのは、はるかな歴史の蘇りでもあるかのような気にもさせる。