望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

主役になれない記者

 最近のサスペンスドラマで主人公になるのは警察関係者が多い。自殺に見せかけた殺人や身元不明の遺体、手がかりが乏しい殺人、過去の事件との関連など、事件の真相を僅かな手がかりをたぐって突き止めるには、主役が警察関連のほうがストーリーを組み立てやすいからだろう。事件を追う新聞記者が主人公になることはなくなった。



 もう50年以上前だが、新聞記者たちが主役のテレビドラマが大人気だった。NHKが放映していた「事件記者」は、警視庁詰めの各社の記者が、事件をめぐって激しい取材合戦を繰り広げるというドラマで、視聴率が40%を超えることもあったという。ただ生放送だったため、現在ではほとんど見ることはできない。



 このドラマの作者・島田一男はミステリーで名高い作家だが、新聞記者ものの作品も多数残している。満州日報の記者時代の体験や見聞を織りまぜた作品には独特の現場の“臭い”があり、ネタをかぎ回る個性的な記者たちにはプロ意識や仲間意識が横溢している。それらの小説の世界がドラマで再現されていたとするなら、人気になることも不思議ではないと思わせる。



 新聞記者に代わって、最近のサスペンスドラマではフリーライターがよく登場する。ただし、謎解きにフリーライターが活躍するという設定は少なく、事件関係者のあとをこっそり嗅ぎ回り、そのうちに真犯人に殺されるというケースが多い。さらには、フリーライター氏が実は、つかんだネタで関係者を脅して金をせびっていたという設定も珍しくはなく、もはやフリーライター「正義の味方」のポジションから遠い役回りだ。



 新聞記者がドラマの主役から外されたのも、新聞記者が必ずしも「正義の味方」ではないと見られるようになったからか。サツ回りの新聞記者が実は警察発表に頼って記事を書いていることを皆が知ってしまい、記者が独自の取材を重ねて真犯人特定につながるネタをつかみ、事件を解決する……なんてストーリーにはリアリティーがない時代になったのかな。



 さらに、捜査方法も一変し、鑑識捜査が徹底されるようになった。立入り禁止の犯行現場から、鑑識捜査が終わった後で記者が何かの証拠を発見できるはずもない。記者に対する管理も強化され、毎日ある程度の出稿はしなければならないので、一つの事件を追って取材するなんて立場はベテラン記者の遊軍だけ。でもベテランは、早期退職後の職探しに忙しかったりもする(?)。



 最近のサスペンスドラマでは警察関係者が主役になるとはいえ、良心的で打たれ強い主人公が事件を解決するとともに、警察内部の不正を暴くというストーリも増えた。腐った上層部やキャリア幹部が、ドラマの最後で主人公から“引導”を渡されるのだが、この設定は、新聞社を舞台にしても流用できそうだ。主人公の正義感が強い新聞記者が、事件を追ううちに、腐った警察上層部と新聞社幹部の癒着を突き止める……「裏金」に目を瞑った新聞社にはリアルだったりして。