望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

悪魔は存在する?

 この世に悪魔が存在すると信じるなんて、時代遅れの迷信だという印象だ。だが、バチカン法王庁が2014年に国際エクソシスト協会をカトリック団体として公認したというニュースを知って、神の存在を信じる人なら、悪魔の存在をも信じるはずだと思い至った。どちらも新約聖書に出てくる存在だからだ。



 神が存在するかどうかについては、昔から議論が続けられてきた。科学が発達して人間が有する知識が増え、この世は神が造ったものではないことも明らかになった。分子、原子の微小な世界から地球上で起こる様々な出来事のメカニズム、さらには宇宙で起きていることも人間はかなり知ることができるようになったが、それでも神を信じる人は大勢いる。



 悪魔とは何か。先々代の教皇ヨハネ・パウロ2世は「悪魔は擬人化した悪霊」と規定したそうで、人間に取り憑く悪霊が悪魔の正体ということらしい。日本の伝承で言うなら、狐憑きの類のイメージになるが、悪魔と狐では悪魔のほうが段違いに邪悪かつ強そうで、悪の次元が異なる印象だ。



 物語に登場する悪魔は、黒装束で人間そっくりだが、目は赤く、耳が尖り、大きな口には牙が見え、角があったり、翼があったり、尻尾があったりと姿は様々だ。神に敵対するように人間を誘惑するというが、そんな姿で現れては警戒されるだけだろうにね。魔法陣などで呼び出されたりもするというので、見かけは怖そうだが、意外に腰が軽いのかもしれない。



 だが、悪霊には姿はない。人間に取り憑き、その人間がいかにも禍々しい悪魔のように振る舞うことがあったりして悪魔イメージが確立されたのかもしれないが、悪霊といっても霊は霊、誰にも見えない(霊の存在は実証されていない。おそらく、存在を信じる人には霊は感じることができ、信じない人には霊は存在しない。悪霊も英霊も、その実在は不確定)。



 神と悪魔の存在を信じるバチカンが認めたエクソシズムの儀式では、霊に憑かれた人間が病気ではないかをチェックすることが求められるようになった。霊の憑依現象が精神病に関係する可能性があるからだ。悪霊が取り憑いていると判断してからエクソシストが、聖水で祈祷し、神と聖霊の救いを願う連祷をする等の一連の正式な儀式を執り行う。



 国際エクソシスト協会には、30カ国の約250人のエクソシストが所属しているという。エクソシストになる資格は、カトリック神父で、所属する教区の司教に任命されること。霊感が強いからといって民間人が勝手にエクソシストになることはできない。公認エクソシストになるにも、先輩エクソシストについて修業したり、養成講座で神学・典礼法のほか、医学・犯罪学などを学んだりしなければならないそうだ。



 一方で、悪魔に取り憑かれていることを自覚しない人間もこの世には珍しくないような気がする。悪魔の所行とも見える行為、行動が世界中で行われていたりする。だが、人間の心に潜む悪魔は難敵だ。そうした悪魔には、公認エクソシストも手を焼くにちがいない。