米ミズーリ州セントルイス郊外ファーガソンで2014年8月9日、白人警官が黒人青年を射殺した。警察発表では、警官と黒人青年が言い合いになり、もみ合いで警官が暴行を受け、黒人青年が警官の拳銃を奪おうとし、警官が発砲に至ったという。射殺された青年と一緒にいた友人は、発砲された時、青年は両手を上げ「撃たないで」と叫んだという。検視では、少なくとも6発が命中し、うち2発は頭に当たっていたことが分かった。
翌日から、黒人青年射殺に対する人々の抗議活動が始まった。警官隊は群衆を追い払うため、催涙ガスやゴム弾を発射して対応。数日後に暴動へとエスカレートすると、警官隊は発煙弾や催涙ガスで応戦し、さらに警察は装甲車を出動させ、群衆にM16ライフルを向けた。
9月に入って米政府の司法長官は、住民と地元警察の間に「根深い不信感」があったと指摘、ファーガソン市警の日常的な活動に違法性がなかったか捜査を始めたと発表した。報道によると、白人が9割以上を占めるファーガソン市警察による逮捕や捜索、銃の使用、被疑者の扱いなど警察の通常業務で、人種差別的な行為がなかったかどうかを過去を含めて包括的に調べるという。
ファーガソン市の人口は2万人超で7割近くが黒人だが、市長や市議会議員の大半は白人。米では職務質問や逮捕は黒人に集中しているとの声があり、警官による黒人射殺事件は多い(2012年に警察、保安官、自警団に殺害された黒人は313人との調査もある)。黒人の所得は白人の6割にとどまるが失業率はほぼ2倍になるなど、白人と黒人の間の経済格差は歴然だ。
米では50年以上前に黒人が、公民権の適用と人種差別の解消を求めて運動を行い、南部諸州の人種隔離各法を禁止する法案を成立させ、さらに1964年に、人種や宗教、性、出身国による差別を禁止する公民権法が制定され、法の上での人種差別は終わった。とはいえ、人種差別感情を持つ白人が皆“改心”したわけではなく、黒人などに対する暴力事件や人種差別は起き続けている。
さて、黒人たちが、警官らによる人権侵害を告発するため、殺された青年の像を建てようとしたなら、議員の大半が白人という市議会は賛成するだろうか。現在であれ過去であれ、人権侵害は絶対的な「悪」であるとの立場に立つなら賛成しなければならないが、議員らは「正確な事実関係を調べろ」とか「対立をいつまでも煽るようなことはすべきではなく、和解への努力こそ大切だ」などと反対するかもしれない。
それで、黒人たちが米国外のどこかの国で黒人の像を建て、米国内における黒人に対する人権侵害を告発し、それが外国では同情とある程度の共感を持って受け止められたとしたなら、米国内の白人たちはどのような反応をするのだろうか……自分らの身に“関係”のない「正義」に、ええ格好をすることは容易だ。