望潮亭通信

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殺される黒人

 2015年にも米国で、警察と関わった黒人男性が死亡した。ボルティモアの検事によると、黒人男性フレディ・グレイ氏は4月12日、警官と目が合い、飛び出しナイフを所持していたとして拘束され(ナイフは合法の種類だった)、警察車両で移送中に頸椎を損傷、グレイ氏が痛みを訴え、治療を求めたにもかかわらず、意識不明になるまで警察官は無視し、すぐに病院に搬送しなかった結果、19日に死亡した。

 死亡が明らかになった後、抗議デモが始まり、27日には黒人住民らの一部が暴徒化し、州知事は非常事態を宣言、州兵を派遣した。抗議デモは全米に拡大、報道によると抗議の対象は、「警察の不正義」に加え、「黒人と白人の不平等」にも広がった。

 ボルティモア警察は調査書を作成し、4月30日に検察当局に提出したが、調査書の内容は公開されず、5月1日になって検事が、警察が男性を違法に拘束し、移送までの過程で負傷させたにもかかわらず、病院に搬送しなかった結果、死亡したとして、警官6人を第2級殺人や過失致死などの罪で起訴したことで、経緯が明らかになった。

 14年8月にはファーガソンで黒人青年が白人警官に射殺され、15年4月にもサウスカロライナ州で、黒人男性が白人警官に射殺された。この時の、逃げようとする黒人男性の背後から白人警官が何発も発砲する様子を撮影した映像が公開され、警察の対応に批判が高まっていた。

 フレディ・グレイ氏が頸椎損傷という致命傷を負ったのは警察車両の中だったことが明らかになり、警察は言い逃れができなくなって、検事も起訴せざるを得なかった……と皮肉りたくなるほど、黒人一般人を殺した疑いがあっても白人警官は逃れてきた。だから、今回の起訴を黒人住民らは歓迎し、「今まで似たような事件はいっぱいあったが、当局に握りつぶされてきた。歴史的な第一歩だ」なんて声も伝えられた。

 ただ、問題は黒人と白人の対立にだけあるのではない。抗議デモには白人も参加していたし、警官には黒人もいる。起訴された6人の警官のうち3人は黒人だ。ファーガソンの事件で指摘されたのは、米の地方自治体の多くで交通違反切符などの罰金が収入に占める割合が高く、警察には罰金をより多く集めるよう圧力がかかるため、黒人を標的にしやすいという警察の在り方だ。

 さらに、犯罪に関わる資産を州政府や連邦政府が没収する資産没収制度の影響を指摘する報道もある。多くの罰金の徴収が期待できる麻薬犯罪の取り締まりに司法省が力を注ぎ、地方の警察署は交通違反の取り締まりなどを強化するようになるという。捕まえやすい人を捕まえて、罰金を積み上げるという警察は、怖い存在だな。

 もちろん問題の根本にあるのは、黒人男性が狙われやすいという差別構造だ。そこに経済問題も複雑に絡む。ボルティモアでは黒人は失業率が高く、低所得で貧困率も高く、多くは劣悪な住環境の一帯に住み、組織暴力との関係も取沙汰されたりする。だから黒人が警察に目をつけられやすいのかもしれないが、黒人も一人ひとりが独立した人格だ。黒人だからと、個人を無視した一般化は差別意識につながる。