望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

自分たちのスタイル

 2014年のW杯ブラジル大会で1勝もできずに帰国した日本代表メンバーから、「自分たちのサッカーができなかった」と悔やむ言葉が聞こえてきた。ずいぶん甘ったれ言い訳だと聞き流していたが、しばらくしてから、これはプロ意識の希薄さを示す言葉ではないかと気付いた。闘いの中で育つのではなく、ちやほやされることで育つプロ意識が持つ欠陥かもしれない。



 相手から邪魔されずに、自分たちのスタイル(戦法)で闘うことができたなら、自分たちがゲームをコントロールできるだろうし、攻めても守っても有利に闘うことができるだろうから理想的だ。だが、現実は理想通りにはいかない。相手も「自分たちのサッカー」をしようとする。



 日本代表の「自分たちのサッカー」というスタイルが強固に確立していたとしても、実戦では互いに、相手が有利にならないように相手の長所をつぶし合う。自分のスタイルにこだわっていれば、実戦では相手に邪魔され、混乱するだけだ。さらに、自分たちのスタイルなるものが美学めいたものになっていたとしたら、勝利は遠い。



 自分たちのスタイルを築くことは、勝利を得るための方法論の一つでしかない。実戦では互いに、相手の思い通りの展開にさせないように邪魔し合うのだから、どんな展開、状況になっても対応できる能力こそが決め手となる。自分たちの思い通りの展開にならない状況を打破してこそ、さすがプロだと賞賛される。「自分たちのサッカーができなかった」との言葉は、プロとしての未熟さを告白するものであろう。



 プロとして生きていく秘訣は何かと問われたプロ雀師が「負けないことだ」と答えたそうだ。勝つことは簡単ではないが、負けないことも簡単ではない。

 直接対決での負けない闘いかたとは、相手を勝たせない闘い方だ。それには、相手の邪魔をし、得意な形をつくらせず、ペースをつかませないようにするしかない。相手も同じことを仕掛けてくるのだから、自分のスタイルなどにこだわっていては、負けない闘いはできまい。したたかさはプロとしての重要な素質だ。