望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

サケの代わりにブリ

 函館港内で9月1日、イワシが大量死して浮いているのが見つかり、漁師や市職員らが回収・撤去作業に追われた。大量死していたのは港の奥のプレジャーボートなどを係留している岸壁近く。イワシは「津軽海峡でイナダに追われて港に逃げ込んだものの、水温が高いなかに多すぎる魚が入り、酸欠で死んだんだろう」と漁師。焼却処分するために回収されたイワシは10トン以上という。

 イワシを追ったというイナダはブリの子供。体長40〜60センチのものがイナダと呼ばれ、60〜80センチがワラサ、80センチ以上がブリと呼び名が変わる。函館など道南では近年、ブリの漁獲量が増えており、2019年には6608トン(前年比31%増)。函館近海では10年前の11倍に増え、ブリの漁獲量は不漁が続くスルメイカを上回った。

 ブリが増えているのは道南だけではなく道北やオホーツク海、道東でもブリの漁獲が増えている。これは海水温の上昇に伴って回遊海域が広がり、産卵場も日本海側、太平洋側ともに北上しているためという。北海道を代表する魚はサケだが、サケを狙う定置網にもブリがかかり、ブリのほうが多いことも珍しくなくなったとか。

 サケも不漁が続いているが、秋を代表する味覚であるサンマの極端な不漁も大きく報じられた。これも海水温の上昇が影響しているとされ、漁場が次第に遠くなり、沿岸から遠く離れた沖合でも漁獲量は少なく、秋の味覚は高値となった。サンマの不漁には別の要因も指摘されている。サンマが漁獲されていた漁場で大量のマイワシが獲れるようになっているので、魚種交代が進んでいるとの解釈だ。

 魚種交代とは、漁獲量が多い魚の種類が一定の周期で入れ替わる現象。サンマとマイワシはエサで競合関係にあり、マイワシは1990年代に日本近海から姿を消したが、現在は復活して大量に漁獲されている。魚種交代が起きる要因について諸説あるそうで、海水温の変化や、それに伴う植物プランクトンや動物プランクトンなどの増減、魚種による成長速度の差(成長が遅れた小さなほうが食われる)などが関係するとみられている。

 海水温の上昇は環境の破壊ではなく変化だ。海水温が上昇すれば、海水温が低い環境を好む魚は去り、海水温が高い環境を好む魚がやってくる。海水温の上昇を嘆く生物があるとすれば、自由に移動することができないサンゴなどだが、環境の変化に適応できなかった生物が滅びるのは地球の歴史において繰り返されてきた。北太平洋は海水温が寒冷期と温暖期を数十年周期で繰り返すことが知られ、魚種交代との関係も指摘される。

 サケやサンマ、スルメイカなどの漁獲量が減り続けている北海道の周辺で、ブリやマイワシ、サバなどの漁獲量が増えた。サケやサンマ、スルメイカなどは資源として減少したのか他の海域に移動したのか定かではないらしいが、サケの代わりにブリ、サンマの代わりにマイワシなどと海は、海水温が変化しても豊かな恵みを人間に与え続けている。