望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





米大陸を襲った寒波

 ナイアガラの滝は世界三大瀑布の一つとされる(他の二つは、南米のイグアスの滝、アフリカのビクトリアの滝)。米国北部の五大湖エリー湖からオンタリオ湖に流れ出るナイアガラ川にあるが、2014年の米中西部を襲った寒波で凍りついた。付近では1942年以来という氷点下20.55度を観測し、例年は冬でも凍らないのに、2014年の寒波では凍った。



 ナイアガラの滝は北緯43度付近(欧州では地中海北部、日本では札幌あたり)にあり、幅が広いため大量の水量が流れる。観光のオフシーズンである冬期は水量が調節されて、夏場より少なくなるそうだが、それでも毎秒1400立方キロ以上というのに、伝えられる写真を見ると、滝壺は氷で埋まり、滝の大半も凍っていた。



 2014年の寒波は米ではそれまでの20年間で最も厳しい寒波とされ、ニューヨークで氷点下16度、シカゴで氷点下26度、米中西部では氷点下40度、体感温度で氷点下51度にもなり、南部のアトランタでも氷点下14度と、これは44年ぶりの記録という。



 2014年の寒波は、北半球を西から東に流れる偏西風(ジェット気流)が、北米で大きく南側に蛇行し、北極圏からの寒波が、カナダを越えて米国まで流れ込んだことによるという。日本列島でも偏西風が南に蛇行すると寒波に覆われるように、偏西風の蛇行は気象に大きな影響を与えるが、蛇行自体は珍しい現象ではない。



 この寒波で米では、「温暖化しているはずではなかったの?」と懐疑論が勢いを得る一方、推進論の気候学者は北極の海水温が上昇して海氷が溶けるなど北極圏の気温上昇を指摘し、それが偏西風の蛇行に影響を与えるようになっているとし、世界的な異常気象をもたらすようになったと反論。さらに、気候の長期的な傾向をみて判断するべきだと、個別の気象事象には取り合わない姿勢。



 ちなみに2013年の北極海の海氷は9月に最小となったが、面積は観測史上最小だった2012年より日本列島4つ分ほど大きく、グリーンランドなどの高緯度域では気温が低く、北極圏は寒かった(JAXAの観測)。北極圏の気温上昇が北米の寒波につながるなら、2012年にもナイアガラの滝が凍るほどの寒波が襲来していても不思議ではないはずだったのに。



 北極の冬の平均気温は氷点下25度ほどという。偏西風の蛇行が気象に大きな影響を与え、時には異常気象をもたらすが、そのメカニズムは地球の自転や、西へ移動しようとする高・低気圧の動きと関連していて複雑だ。目立つ気象現象は異常気象だとして「温暖化の影響だ」と言っておくのが簡単だろうな。