望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

実際の使用状況と違う


 新型車が出るたびに自動車雑誌には試乗リポートが掲載される。新型車といっても、軽もあれば大型セダン、大小のミニバンやSUV、2人乗りのスポーツカー、商用車など様々なタイプがあって、それぞれに想定される使用状況は異なる。だから、試乗リポートも、新型車それぞれの用途にふさわしい状況で乗ることが本筋だろう。



 しかし、新型車それぞれの使用状況に合わせた設定で試乗することにはさほど注意が払われてはいないようで、借り出した試乗車をリポーターが乗って都内や周辺を走り、少し高速に乗って往復してみるくらいが多い。セダンならそれでもいいのだろうが、都内での使用をほとんど想定していない試乗車にはふさわしくない。



 2014年に、10年ぶりに復活した「ランクル70」の試乗リポートが当時の自動車雑誌に掲載された。タフな使用に耐える頑丈な車が必要だとの要望に応えての限定再発売だというが、試乗リポートの中には都内や周辺で乗っただけらしいものもあり、そういう状況で使うならランクル70の欠点ばかりが目立つだろう。



 曰く「ギアチェンジの操作感はシブい」「乗り心地は空荷のトラック」「ステアリング真ん中付近の手応えはスルッスル」「風切り音が出てる」「最小回転半径が大きい」「後方視界は良くない」「クラッチは踏みごたえがある」「舗装が荒れたところや高い速度域では縦揺れ、横揺れが出てくる」「低速域でのトルクの粘り強さがあるが、騒音や振動が大きい」「あまりハンドルが切れず、戻りも鈍い」など散々。



 都内などで四駆に乗るなら、もっとオシャレなSUVが各社から発売されている。ハンドルがクイックで、乗り心地がよく、静かで、各種操作が軽く快適な車は今や珍しくないだろう。なぜランクル70は、そうした車と違うタフな車に仕立て上げられているのか。そこに焦点を当てなければリポートの意味がない。言い換えれば「便利さ」の示す内容は車により異なるのであり、それをスルーして、ハンドリングや乗り味がどうこう言ってみても無意味だ。



 試乗リポートの中には悪路走破性に触れたものもあり、パートタイム4WDであることの意味、対地障害角、前後アクスルに電動デフロックを装備できることなども説明していたりし、生活の必要からランクル70を選択する人に向けての情報提供になっている。東京や周辺で「シティ」暮らしをしているリポーター氏には気づきにくい点かもしれない。



 例えば、2人乗りのスポーツカーの試乗を、道が込み入った住宅地で行い、「日常の買い物の足としても使える」などとリポートしても、それは的確に評価したとは言えない。同様に、ランクル70の真価を試すなら、それ相応の場所に行って乗らなければ、的確な評価はできまい。ただ、そうなると問題は、無傷のままで試乗車を返却できるかどうかになったりするかな。