望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

旧型になってから批判

 自動車雑誌などに掲載されている新型車の試乗リポートは、その新型車の良いところしか取り上げないという印象だ。うっかり厳しい批判を書いてしまうと、広告を出してもらえなくなったり、広報に様々な便宜を図ってもらいにくくなったりするから“自主規制”せざるを得ないのだろう……などと想像してしまう。

 これは試乗リポートに印象批評が多いこととも関係しているのかもしれない。主観的なリポートならば、いくらでも恣意的に誉めることができるし、欠点などに触れずに済ますこともできる。数値などを主体にした分析的批評では、さじ加減が難しくなって、誉めるに苦労するだろう。

 誉めるにもテクニックが要る。何でも次々に誉めてばかりでは、こいつは太鼓持ち評論家だなと見られるので、試乗リポートなのに長々とスペックの解説をしたり、内外装のデザインを細かく誉めたり、メーカーの戦略を詳しく解説したりとリポーターは工夫する。そんなリポートに接すると、実際に乗った感じでは誉めることがあまりないのだなと推察できる。

 誉めるテクニックで、よくある手法は、さりげなく旧型の欠点を指摘して新型車を誉めるやり方。旧型にはこれこれの気になるところがあったが、それが新型車では「解消されている。素晴しい」とやる。旧型が販売されている時に、気になる点を指摘するのが自動車“ジャーナリスト”だろうに。

 この、旧型車の気になるところを強調して、それらが改善されたとして新型車の評判を上げるという戦略を数年前に新型プリウスで行ったのがトヨタ。旧型車は良く売れ、まだ愛用者は大勢いるだろうに、メーカーが旧型の評価を落とすのだから、思い切ったPR戦術だ。プロトタイプの試乗会場に旧型車も用意して、比較試乗させたというから徹底していた。

 4代目プリウスの試乗リポートから旧型車に対する部分を抜き出すと、例えば「コーナー入り口では操舵レスポンスが鈍く、頑固なアンダーステア」「ブレーキもクセがあり、速いペースで走るとコントロールするのに苦労」「制動時にクルマが暴れ、腰砕けになる」「なんともゆる〜い作りなのだ」などとリポーター諸子は遠慮がない。試乗会での資料に旧型は、走りの楽しさ/乗り心地とスタイリングが弱みだったとはっきり書いてあったそうだから、気兼ねなく正直に書くことができたか。

 ハイブリッドで燃費が良いというだけでは、もうアピールする力が弱くなったので、自動車としての魅力を高めたことをメーカーは強調したいのだろうが、このPR戦略は過去のメーカー自身の開発姿勢や開発力を自己批判することでもある。正直になったのか、時代の変化に適応しただけなのか判別は難しいが、燃費だけではなく走行性能も優れた車を開発したのなら、ユーザーにとっては歓迎すべきことか。

 さて、旧型の欠点を指摘して新型を誉めるという手法をメーカーに借用された評論家やリポーター諸氏は、この手法がメーカーに公認されたと安心してはいられない。新たな誉め方を工夫して編み出さなければ、評論家・リポーターとしてのプライドに関わろう。比較対象を恣意的に設定する印象批評を続けるなら、新型車を誉めるための新たな“サンドバッグ”を探し出す必要がある。