望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

成長しすぎた自動車

 新型のクラウンのセダンは全長5030mmで全幅1890mm、車重2000kgと巨体になったが、1955年に発売された初代のクラウンは全長4285mm、全幅1680mm、車重1210kgだった。現行のカローラ・セダンは全長4495mm、全幅1745mm、車重1230〜1430kgなので初代クラウンはかなり小型だった。

 モデルチェンジが行われるたびに少しずつ「成長」するのは日本車だけではない。例えば、ベンツが小型車に参入したと騒がれたCクラスの現行型は全長4751mm、全幅1820mmだが、初代(190。1985年)は全長4420mm、全幅1680mmだった。BMWの各車種もモデルチェンジのたびに巨体化し、中型の5シリーズは初代(1972年)は全長4620mm、全幅1690mmだったが、現行5は全長5060mm、全幅1900mmと巨体化した。

 各国で自動車の保有台数が増え続け、各国メーカーの各車種はモデルチェンジのたびに車体が大きくなっているので、車道における自動車の密度は高くなる。各国で、絶え間なく車道を拡幅するとともに新しい車道を建設し続けているなら、巨体化して増殖する自動車に対応した道路環境となるだろう。だが、既存の住宅が密な都市における道路の拡幅や新設は簡単ではない。

 自動車は、安全基準に対応して車体は堅固になるとともに重くなり、装備を充実させると重くなり、車体が大きくなると重くなり、EVやPHV、HVなど積む電池が多くなると重くなる。自動車の重量を受け止めるのは道路だが、重量級の車両が増えると痛みつけられる度合いも増える。

 仏パリ市の住民投票で、重量の重いクルマに対して市内の駐車料金を3倍にすることが承認された。対象になるのは、重量が1600kgを超えるガソリン車、ディーゼル車、ハイブリッド車と、2000kgを超えるEVだ。居住者やタクシーなど業務目的の場合は適用されない。市長は「健康にも地球にも良い措置を支持する市民の明確な選択」だと歓迎したという。

 これはSUVを標的にした動きだと報じられた。販売台数が増えて路上に多くなったSUVは、大きく車重が重く、「公害や安全性などの面で多くの問題を引き起こしている」とパリ市。住民投票による賛同を得て駐車料金を大幅に引き上げることで、市内に入るSUVの台数を減らすことが狙いだという。

 大きく重量の重いクルマに対する規制は英ロンドン市も検討していると伝えられ、大型のSUVは各国でも増えているので、「成長」して大きく重くなる自動車に対する規制は今後増えるかもしれない。一方で小型でエコな2人乗り程度の自動車の普及は進まない。大きく重いSUVが売れるのは、人々が環境意識よりも別の何かを重視していることを示している。