望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





不合理かエコか


 世界初の量産ハイブリッド(HV)車である初代「プリウス」が発売されたのは1997年。“環境に優しい”との先進イメージを確立し、モデルチェンジした2代目以降は北米など世界市場でも売れ、存在感を高めた。そのプリウスプラグインハイブリッド(PHV)が加わったのは2009年だった。



 HVはガソリンエンジンと電気モーターを搭載し、車種によっては二つの動力を使い分けることもできるので、電気自動車(EV)みたいにモーターのみでも、ガソリンエンジンだけでも、二つを同時に使用しても走行できる。EVの弱点は走行可能距離が短いことと、充電に時間がかかることだが、その点ではHVが有利だ。



 HVを、よりEVに近づけたのがPHV。搭載エンジン以外に、家庭のコンセントからも充電できるようにしたもので、こまめに家庭などで充電すれば純粋なEVとして使用でき、バッテリー残量が少なくなればガソリンエンジンを使うHVになるので、長距離走行も可能となる。



 HV量産車の代表格がプリウスなので、日本勢が技術面では世界をリードしているように見えるが、HVもPHVも以前からドイツなど各国メーカーも開発に取り組み、試作車を公開したりし、1994年にはアウディがHVを世界で初めて市販した。ただ、高価であったため普及はしなかった。



 プリウスの成功で、すっかり市民権を得たHVだが、プリウスに対してドイツからは以前、「動力を二つ搭載するのは合理的ではない」などという批判が出ていた。自分たちも開発に取り組んでいたくせに、量産化できず、トヨタに先を超されたため、体面を保つためのプリウス批判のようにも聞こえた。イソップ寓話の“酸っぱいブドウ”にもつながる負け惜しみだったか。



 そのドイツの各社がここ数年、続々とHVもPHVもラインアップに加えている。同時に、「動力を二つ搭載するのは不合理だ」なんて批判は聞こえてこなくなった。量産化できる技術をやっと身につけ、電池の性能向上もあって、市場投入できるとなったら方向転換、我こそはエコで環境に優しいメーカーだと謳い始めた印象だ。欧州ではCO2排出量規制があるので、現実的なHVやPHVにすがるしかないのだろうな。



 ちなみに当時、ドイツからの受け売りなのか、HVを「不合理だ」と批判していた自動車ジャーナリストも日本にいた。だが、ドイツメーカーもHVやPHVを販売し始めたら、宗旨替えしたらしく、ドイツ車のHVやPHVを絶賛し始めた。