望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

自然災害とEV

 1月中旬から全米を寒波が襲い、カナダ国境沿いのモンタナ州では過去最低のマイナス45度を記録、比較的温暖な西部や南部でも氷点下の気温となり、インディアナ州で積雪が約1mに達し、フロリダ州でも降雪があった。全米で凍結による交通事故が多発し、空港の滑走路面の凍結により大量のフライト欠航や遅延が続くなど交通網の混乱が広がった。凍死や交通事故などで80人以上が死亡したという。

 この寒波で話題になったのが、シカゴ市外のEV充電所で立ち往生するEVが多発したことだ。低温のためにバッテリー充電が正常に機能せず、充電に時間が長くかかるとともに、電力を要する暖房を使えなくなったので、レッカー車でけん引されるテスラ車が相次いだと報じられた。「極端な気象条件における電気自動車のぜい弱性を浮き彫りにした」とロイター通信。

 テスラの充電施設「スーパーチャージャー」でEVを接続しても充電できない問題が発生したのは、「氷点下ではバッテリーの正極と負極の化学反応が遅くなり、充電が困難になる」「バッテリーで駆動するEVを非常に寒い環境で作動させるのはかなり難しい。寒くなるとバッテリーを急速充電することができないが、物理的に解決できる方法はない」と専門家の解説。

 EV普及率が高い北欧ノルウェーでは所有者のほぼ9割が自宅に充電設備を備えるほか、全国に充電所を増やすなどEVインフラ整備を進めている。米では寒波の中、「スーパーチャージャー」には多くのテスラ車が集まり、充電器に接続するために数時間待たされ、接続できてバッテリーが機能したとしても時間がかかる状況だった。

 EVは充電が切れると動かない。大きな地震が起きると停電になる。停電した被災地で充電が切れたEVは暖房を使えないので季節によっては車中泊にも使えまい。集中豪雨や台風などの自然災害でも架線の切断により地域的に停電することがある。自然災害が多い日本でEVへの転換を進めると、そのツケはEV所有者に回ってくる。

 自然災害は世界各地でも多発しているとともにEVの普及を国策として推進している国も多いので、自然災害に弱いEVの事例がこれから増えそうだ。気候変動論によると今後、気候の不安定さは増加しそうなので強い寒波に襲われる地域が世界で増えるかもしれない。環境に良いというEVの実用面での弱点についての検証が低調だが、それは欧州などの政府が強引に進める気候変動論の邪魔になるためかなどと邪推したくなる。

 米コンシューマー・リポート誌は、米国内の33万台以上のデータから「EVはガソリン車よりも問題が79%多い」「EVはまだ主力車種としては発展途上だ」とし、テスラは車体や塗装や内装などに問題を抱え、他メーカーのEVは駆動装置やバッテリー、充電の問題の発生率が高かったとした。EVトラックでは被災地に救援物質を届けることは簡単ではないだろう。気候変動で異常気象が増えるのなら、信頼できる移動手段が存在し続けることは重要だ。