望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

当たらないし、使えない

 どこかの国が日本に向けてミサイルを発射したなら、日本のどこかに着弾する前、飛んでいる間に迎撃ミサイルで打ち落とすのが、被害を最小にする最も効果的な防衛方法だろう。だが、高速で飛んでいるミサイルを撃ち落とすことは簡単ではない。映画なら、飛んできた弾丸に向けて主人公が銃を撃ち、発射された弾丸が飛んでくる弾丸に当たるとの描写もあろうが、その確率は現実ではほぼゼロだ。

 高速で飛んでいるミサイルを撃ち落とすために必要なのは、飛んでいるミサイルの軌道を常に把握できていることだ。撃ち落とすべきミサイルが、いつ、どこに存在するか空間的な位置を常に把握できていなければ、どこへ向けて迎撃するのか見当がつかない。標的がどこにあるのか知らないのでは、当てることはできない。

 しかし、攻撃する側がミサイルの発射の日時や時間、軌道、速度、目標などを知らせてくれるはずはなく、強力なレーダーを用意しても、地球は丸いが電波は直進するので、レーダーで遠い国のミサイル発射を瞬時に探知し、追跡できるかは不明だ。日本に向けて高速で飛んでくるミサイルを、迎撃ミサイルを当てて撃墜するという可能性は限りなく低い。

 日本政府は、地上配備迎撃システム「イージスアショア」を山口県秋田県に配備する計画の停止を発表した。このシステムは海上自衛隊護衛艦に配備している「イージスシステム」の陸上版で、2カ所に配備することで日本全国を守ることができるとの触れ込みだったが、発射した迎撃ミサイルのブースターの落下位置が制御できないから危険だというのが計画停止の理由。

 人々の生活空間に空からブースターが落下してくるのは確かに危険だ。だが、迎撃ミサイルが発射される時は、日本に向けてミサイルが飛んでくる時であり、そのミサイルを破壊しなければ、日本のどこかで大きな被害が生じる可能性が高い。本当に迎撃ミサイルで、高速で飛んでくるミサイルを撃ち落とすことができるなら、ブースターの落下の危険を考慮してもイージスアショアの配備を日本防衛のために進めるのが、責任ある政治だろう。

 日本政府がイージスアショアの配備計画を停止したのは、実戦では「あてにならない」システムだからだ。飛んでくるミサイルに確実に迎撃ミサイルを当てなければ、このシステムの存在意味はない。だが、このシステムで迎撃ミサイルを発射した場合、高速で飛んでくるミサイルに当たる確率は何%か、定かではない。このシステムは軍事機密に守られているが、おそらく日本政府はこのシステムの「実力」を承知している。

 米国はミサイル防衛計画の開発を進め、飛んでくるミサイルに迎撃ミサイルを的中させる実験を繰り返した。だが失敗が多く、迎撃ミサイルが的中したケースは公表されたが、実はミサイルの正確な発射位置、発射時間、軌道などが事前に明らかにされていたり、飛んでくるミサイルが電波を発信し続けて迎撃ミサイルが追跡しやすくなっていたなどという。実戦では「あてにならない」システムを日本政府が見限ったのは正しい判断だろうが、このシステムは日本が米国に資金供給することが目的だったと見ると、米国は代わりの資金供給を求めるだろう。