望潮亭通信

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手本は北朝鮮?

 ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮は、短距離から長距離まで各種ミサイルを保有するという。報道によると、実戦配備されているのは「スカッド」(射程300〜500キロ)、「スカッドER」(同1000キロ)、「ノドン」(同1300キロ)、「北極星2」(同2000キロ以上)、「ムスダン」(同3000キロ以上)。開発中なのが「テポドン2改良型」(同6700キロ以上)で、他にも潜水艦発射弾道ミサイルなど様々なミサイルを発射し、改良を続けている。

 すでに実戦配備されているノドン(同1300キロ)は日本列島をすっぽりカバーするので、日本に対する北朝鮮の軍事的な脅威はすでに現実化していた。最近になって北朝鮮のミサイルの脅威が強調されているのは、米グアムやアラスカを攻撃できる長距離ミサイルの実戦配備が近づき、米国が騒ぎ始めたからだろう。

 なぜ北朝鮮弾道ミサイルの開発、装備を急ぐのか。防衛白書によると、北朝鮮軍は陸軍中心の構成で即応態勢を維持・強化しているが装備の多くは旧式であり、経済の不調による国防支出の限界もあって、韓国・在韓米軍に対して通常戦力では著しい劣勢。このため、大量破壊兵器弾道ミサイルの増強に集中的に取り組むことにより劣勢を補おうとしている。

 北朝鮮の一連のミサイル発射は国際的に強く批判されているが、北朝鮮は反発する。米国との直接交渉の成果は見えず、中国の北朝鮮に対する影響力は大きいと見えるが、北朝鮮が中国の言いなりになるわけもなく、北朝鮮のミサイル開発は続いて行くだろう。

 こうした北朝鮮の軍事戦略には、相応の合理性がある。通常兵力が周辺国に比べると弱体化し、外国の軍隊が駐留しているわけでもなく、外国からの軍事支援はあてにせず(できず)、独力で自国を防衛するしかないとなれば、まず短距離ミサイルを増やして侵略に対する反撃力を高め、次に中距離ミサイルを増やして周辺国への攻撃力を誇示して、抑止する。財政的に限られているなら、弾道ミサイルの装備に注力するのは間違ってはいないだろう。

 日本には米軍が駐留しているが、日米安保が破棄され、日本単独で防衛力を整備しなければならなくなった場合、北朝鮮と同じ状況に置かれる。日本の防衛のためには在日米軍並みの戦力が必要だとの見方もあるが、在日米軍はアジア全体からインド洋、さらには中東までの展開を考慮しているものなので、日本の防衛のためだけなら在日米軍の戦力は過大であり、原子力空母なんか必要ない。

 日米安保を破棄して日本単独で防衛しなければならなくなった時に、①歴史を踏まえ専守防衛に徹し、周辺国に過剰な警戒感を持たせない、②軍事予算に制約を課す、③民主主義体制を堅持し、文民統制を明示的に強化する、ことが必要になろう。つまり、通常兵力の大幅増強には制約があるので、侵略に対する反撃力の強化に重点を置くことになる。

 具体的には射程1000キロ以下の各種の弾道ミサイルを日本全国に配置し、各種の侵略に対する迎撃体制を整えることが、効果的な専守防衛戦略だろう。北朝鮮のミサイル戦略の「成功」と「失敗」は、日米安保を離れた時の日本にとって参考になる。