望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

グレタとトランプ

 米誌「タイム」は2019年「今年の人」に16歳の環境活動家グレタ・トゥンベリさんを選んだ。「地球が直面する最大の課題に対して、最大の影響力を誇る人物となった」ことが選出理由だという。確かに世界のマスコミはグレタさんの動向を大きく扱ったから、少女は大きな影響力を持ったかに見える。

 これに対して米トランプ大統領は「ばかげている。グレタは自分のアンガーマネジメント(怒りの制御)の問題に取り組まなきゃならない。それから友達と良い映画を見に行ってこい。落ち着けグレタ、落ち着け」とツイートし、環境問題への大人の取り組み姿勢は消極的だと怒るグレタさんを揶揄した。

 グレタさんはすぐに反応、ツイッターのプロフィールを「怒りをコントロールする問題に取り組むティーンエージャー。落ち着いていて、友達といい映画を見に行っています」と更新、まともに反論せず、トランプ大統領の言葉を使って切り返してみせた。グレタさん本人が書いたのか、周辺にいる環境活動家が書いたのか明らかではないが、冷静さを感じさせた。

 2人は9月にも“バトル”していた。国連で怒りをあらわにスピーチしたグレタさんに対してトランプ大統領は「彼女は明るく素晴らしい未来を夢見るとても幸福な若い女の子のようだ。ほほえましい」と皮肉ってツイートし、グレタさんはツイッターのプロフィールを「明るく素晴らしい未来を夢見るとても幸福な若い女の子」に変更、トランプ氏をいなしてみせた。

 トランプ氏は米国の大統領という国際的に大きな影響力を持つ地位にいるが、グレタさんは何の地位も持たない少女だ。欧米のマスコミが大きく取り上げるから、その言動が伝えられるが、欧米のマスコミが取り上げることを止めれば、たちまち忘れ去られる存在だろう。

 しかし、米トランプ大統領とグレタさんは対等に渡り合っているかのように欧米のマスコミは報じる。CO2排出増加による地球環境危機をグレタさんは信じ、トランプ大統領は信じない。主張ではかけ離れている2人だが、思い込みの強さと自己主張の強さ、異論を述べる他者への激しい攻撃では、似たような人格だとも見える。

 CO2排出増加による地球環境の危機という物語がなかったとすれば、グレタさんは無名の少女でいただろう。欧米のマスコミがお膳立てをしてグレタさんは、米トランプ大統領と対等に渡り合うポジションに据えられた。CO2排出増加による地球環境危機という物語を定着させるには、様々な演出が必要になるらしい。