望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

百貨店の凋落

 地方で百貨店の閉店が相次いでいる。百貨店は大都市の象徴的な商業施設で、それが地方の「わが街」にも来ると大歓迎された時代があり、売り上げも順調だったが、次第に売り上げは減っていった。駅前などに立地する百貨店には鉄道を利用して周辺の人々も訪れたが、幹線道路沿いなどに巨大なショッピングモールができたりすると、わざわざ百貨店に行かなければならない理由は減る。

 地方では各家庭が複数の軽自動車を持つようになり、大規模な商業施設には広大な駐車場が不可欠だが、駅前などに出店すると駐車場スペースを広げるためには相応のコストがかかる。百貨店より先に、都市部の駐車スペースが少ない商店街が影響を受け、いわゆるシャッター商店街になったりするのは、購買客の行動スタイルの変化に対応できなかったからだ。

 更にコンビニも増え、ネット通販が一般化し、どこでも何でも買うことができる時代になった。そうなると、百貨店ファンや、百貨店で買うことが目的という人しか行かなくなるのは当然。一昔前なら、百貨店の商品なら品質が確かだとされ、百貨店に買い物に行く理由になったが、ファストファッション商品に見られるように商品全般の品質が向上した。

 百貨店はシャワー効果(上層階に来店した客が下層階を周遊)を期待し、集客のために、一昔前には屋上にミニ遊園地を設けたり、上層階に大きな食堂を置いた。集客効果が薄れるとイベントスペースに変えて各種の展示会を開催したり、大型書店を入れた。そうした大型書店にけっこう人がいたりするので集客の効果はあるのだろうが、売り上げ減は止まらなかった。

 日本の百貨店の売り上げはピーク時には12兆円あったが、2015年には6兆1742億円と縮小を続けている。訪日中国人の爆買いなどで一時は盛り返したが、長くは続かず、5兆円程度まで減るともいわれている。特別な買い物をする特別な場所でなくなった百貨店は、自前の土地・建物ならば人気テナントへの場所貸しで生き延びられようが、賃貸が多いという地方百貨店では閉店するしかないか。

 中国でも百貨店の閉店が相次いでいるという。アウトレットモールが急増し、ネット通販の台頭もあって消費者の買い物形態が多様化、百貨店の魅力が薄れたこともあって業績低迷に陥ったというのは日本と同様で、急速な自動車の普及が買い物行動の変化を後押ししたというのも日本と似ている。

 百貨店だけが提供できる何かがあると皆が思っていたのは、消費に対するあこがれが残っていた時代だろう。豊かになるにつれて消費は日常的行為に過ぎなくなり、どこでも何でも買うことができるようになると、百貨店の存在感が希薄になるのは自然なことだ。百貨店の活路は、百貨店でしか得ることができない何かを提供して集客することか。それはリアルのライブ体験が鍵になるだろう。