望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

閉じた世界と資本主義

 資金を集めて経済活動を行い、得た利益から利子を出資者に提供することで成り立っていた資本主義経済が壁にぶつかっている。世界経済が大不況で機能不全に陥っているわけでもないのに、日米欧などの10年国債金利は低い。利子を産まなくなった経済活動は資本主義の終焉を示すものだと論じるのが水野和夫氏だ(『閉じてゆく帝国と逆説の21世紀経済』)。

 「長期金利は資本利潤率の近似値」であり、「利子率=利潤率が2.0%を下回った状態では、資本を投下しても利潤を獲得することはできない」と水野氏は説き、21世紀の超低金利は、実物投資空間から「もはや資本を蒐集することができなくなったことを示している」とする。

 日本の家計の金融資産残高は1800兆円(2016年末)と増えているが、名目GDPは537兆円(2016年度)。世界の名目GDPは74兆1964億4百万米ドル(2015年)だが、世界の金融資産の総額はGDPの数倍になるとみられ、日本でも世界でも、実体経済に比べて資金過剰の状態になってしまっている。ちなみに日本の企業の金融資産も1101兆円(2016年末)と過去最高を更新した。

 実物投資空間(地理的・物的空間)の拡大は1970年代に限界を迎え、先進国の経済成長は頭打ちになり、米国はバーチャルな電子・金融空間を構築し、世界に拡大することで世界から資金を集める資本主義に構造を変えた。それは富裕層だけの所得が大幅に増えるという構造でもあり、富の不当な蓄積が顕著になったと水野氏。

 市場の膨張が可能な時代は終わり、フロンティアが消滅して市場が有限であると判明したゼロ金利の時代には「セイの法則」は無効だと水野氏は論じ、技術革新への信仰を成長戦略の柱に据えても成功しないのは、技術が資本主義の膨張に貢献するように求められているからだとする(資本主義の膨張は限界にぶつかっている)。

 資本主義が、何は正常なのか分からない例外状態に突入したことで、長期にわたるゼロ金利と極端な電子・金融空間の膨張が生じ、資本主義の本質である「ショック・ドクトリン」が大手を振って登場しているのが現在だと水野氏は説き、世界中で資本主義は機能不全に陥っているとする。

 成長空間が乏しくなった資本主義の強欲さは平等、自由を破壊し、民主主義の機能不全としても現れ、国民国家と資本主義からなる近代システムの矛盾が臨界点に達してきていると見る水野氏は、フロンティアが消滅した「閉じた」世界では、地域帝国と地方政府の二層からなる閉じたシステムが有効ではないかと、歴史を振り返りながら示唆する。