望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

空間の破れ

 夜空の星を見ていると、例えば北極星までの距離は434光年(約323光年という説もある)とされ、この宇宙はとてつもなく大きいなあと感じる。宇宙の全体の大きさがどれくらいかは想像もつかないが、果てしない空間が続いていることは間違いない。さらに、宇宙は膨張しているという。以前は、いつか膨張が止まるという説もあったが、現在では宇宙は膨張を続けると考えられている。

 膨張を続けているということは、時間を遡ると、宇宙はもっと小さかったことになる。宇宙を膨張させている要因(力)が変わっていないとすれば、時間を遡ると、いつか1点に凝縮された状態に行き着く。それが138億年前で、宇宙の全物質は原子1個分程度のスペースに集まっていたと考えられている。肉眼では見えないほど「最初」の宇宙は小さかったことになる。

 原子1個分程度からビッグバンという急激な膨張を経て、現在の広大な宇宙まで膨張を続けていると考えられていたが、現在ではビッグバンの前にインフレーションが起きたと考えられている。それは、1秒の1兆分の1の1兆分1よりも短い時間に、原子1個分程度から太陽系程度まで引き伸ばされたというもの。突然、現れたという感じだ。

 原子1個分程度の存在は、無きに等しい。だからか、この宇宙は無から有を生じたという説明もある。無といっても、存在しないということではなく、素粒子の生成と消滅が繰り返される「ゆらぎ」のある状態だと説明される。素人には、想像しようにも皆目イメージがつかめない状態だ。

 この膨張を続ける宇宙には、縮小を続ける場所もある。それがブラックホールで、あまりにも質量が大きいために、強い重力で縮小を続けるとともに光さえ外に出ることができない。ブラックホールの中心では物質が圧縮され続けるのだろうから、いつか原子1個分程度になってしまうかもしれない。

 夜空を見上げながら、想像してみる。ブラックホールの中心では圧縮が続き、やがて原子1個分程度の大きさになると、空間にピンホールのような破れが生じて、その破れから飛び出してしまうのではないか。別の空間に飛び出した途端に、ブラックホールの重力から解放されて、原子1個分程度の大きさから瞬時に巨大化し、膨張を続ける…。

 この宇宙が存在する空間とは別の空間が幾つもあるなら、宇宙も幾つもあるだろうし、ブラックホールが誕生して中心部に破れが生じるたびに空間が増え、宇宙の数も増える…。そんなことを考えてると、身の回りのことや世間で起きていることが小さなことに思えてくる。まあ、そうした小さなことに捉われて生きるのが人間の大きさに見合っているのだが。