望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

自分で状況を変える

 中国ファーウェイCFOの孟晩舟副会長は2018年12月にカナダで、米国の要請により逮捕された。容疑は、米国が経済制裁を科すイランに製品を違法に輸出したり、違法な金融取引に関わったこと。米国は引き渡しを求めるが、カナダの裁判所は孟氏の保釈を認めた。検察側は、孟氏が中国に逃げると主張したが、裁判所は退けた。

 保釈には1千万カナダドル(約8億5千万円)の保釈金、滞在地はバンクーバー、パスポートは取り上げられ、常に身体にGPSの追跡装置を装着するなどの条件がつけられた(後に孟氏は1300万カナダドルの大邸宅への転居を認められた)。懸念された中国への逃亡を防ぐことがカナダではできている。

 保釈中だったゴーン氏が密かに日本を脱出し、レバノンへ逃亡することに成功した。孟氏とゴーン氏は高額の保釈金、滞在地の制限、パスポート取り上げなどは同じだったので、GPS追跡装置の装着が逃亡を防ぐポイントだったと見える。日本の司法などにもGPS追跡装置の導入が今後検討されるなら、それはゴーン氏の「功績」か。

 外国における不当な逮捕だとの感情は2人に共通していただろうが、逃亡の意志はゴーン氏のほうが強く、また、富裕層に様々な便宜を提供する組織とのつながりもゴーン氏のほうが緊密だったようだ。また、孟氏の場合は米中の対立が背景にあるから、巻き込まれた「被害者」でいることができる(中国に逃げたなら、ただの逃亡犯になる)。

 ゴーン氏も「被害者」に見られることを望んでいる。レバノンでの最初の声明で「もはや私は有罪が前提とされ、差別がまん延し、基本的な人権が無視されている不正な日本の司法制度の人質では」ないとし、「日本の司法制度は、国際法や条約のもとで守らなくてはいけない法的な義務を目に余るほど無視して」いると批判、「不公正と政治的迫害から逃れた」と安堵と勝利をうたう。

 日本の司法制度を批判し、貶めることがゴーン氏には必要だった。高額の報酬を隠していたことや特別背任、外国への不正送金による所得隠しなどで逮捕されたゴーン氏には、裁判で争っても有罪となる確率が高く、日本にいると長い懲役刑が待っているだけだった。日本から逃亡して自分を「被害者」に仕立て、自分の強欲から焦点を逸らしたゴーン氏は今後も、日本の司法制度を批判し、貶め続けることが必要になる。

 ゴーン氏は、自分で動いて状況を変えた。自分に不利な状況から逃れ出て、欧米メディアを利用することで情報発信の主導権を握り、問題の設定を日本の司法制度にすり替えて「被害者」を演じる……不都合な状況を自分で変えると同時に、法の支配が国によって解釈次第で変形する現実を利用した。日本人が学ぶべきものは、国際社会におけるゴーン氏のしたたかな生き方だな。