望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

交換価値から自由な通貨

 1万円札1枚の製造原価は約20円という。上質の紙に精巧な印刷を施している1万円札は、鑑賞の対象にもなりそうだ。だが、1万円札の価値は、鑑賞の対象になることにはなく、それで1万円分の商品と交換できることにある。

 20円ほどで製造できる印刷物の1万円札が、なぜ1万円の交換価値を持っているかというと、人々が1万円分の商品と交換できると信じるからだ。政府(中央銀行)が交換価値を保証しているから人々は信用するのであろうが、政府の保証というものに対する人々の信頼は常に変化している。

 インフレとは貨幣の交換価値が減っていく現象であり、政府が保証する交換価値を人々が疑い、信用しなくなっている現象でもある。その極端な例がハイパーインフレで、最近ではジンバブエで100兆ジンバブエ・ドル紙幣まで発行したがインフレは続き、自国通貨を放棄して米ドルなどを使用せざるを得なくなった。

 いつでも1万円札は1万円分の交換価値を持っていると、デフレが続く日本では思いがちだが、政府が保証する貨幣でも、その交換価値は不安定なものである。だが、仮想通貨に比較すると政府保証の通貨が遥かに安定しているのは確かだ。

 仮想通貨が投資商品として人気を集め、資金が流れ込むことで暴騰し、規制の動きなどで急落したりを繰り返している。どこの国(中央銀行)の保証もない仮想通貨には、交換価値の保証は全くない。だから、通貨ではなく金融商品なのだが、インターネット上での取引の利便性が評価されて擬似通貨とみなされている。

 もし1万円札が美術品として評価され、1万円札1枚が数万円で取引されるようになったなら、人々は1万円札を買い物に使うことはやめ、1万円札を売買するようになるだろう。1万円分の交換価値よりも1万円札そのものの価値のほうが高くなったなら、貨幣としての機能を1万円札は放棄する。

 交換価値から自由な通貨が、過剰な価値を持ったならば何が起きるのかを仮装通貨フィーバーは見せてくれている。通貨の名はあるものの通貨としての機能を失い、金融商品化するだけだ。仮想通貨は政府保証がある通貨ではないが、通貨と価値を考える材料を提供してくれている。