望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

電気自動車(EV)の試乗記

 独ダイムラーが電気自動車(EV)専用に開発した「EQC」の販売が始まっている(価格は1080万〜1200万円。航続距離は欧州WLTCモードで400km)。全長4761×全幅1884×1623mmと大柄で、多量のバッテリーを積んでいるため車重は約2.5トンもある。

 メディアに現れ始めた試乗記によると、「アクセルを踏むと無音でスルスルと走りだす」「圧倒的な車内の静かさ」で、乗り心地は「重厚でマイルドな心地良い快適感」。アクセルを踏み込めば「スポーツカーに匹敵する加速力」。「モーレツな加速をするのに快適な乗り心地を持つSUV」で、ガソリン車などから乗り換えても「違和感は皆無」と“いつものように”絶賛している

 独VWもEV専用車を発表したが、こちらは価格3万ユーロ(約350万円)未満と大衆路線で、2020年春から欧州で納車を始めるという(購入者には政府から補助金が出る)。航続距離は330km。28年までに約70車種のEVを投入し、全世界で2200万台を販売するとVWは、ディーゼル・スキャンダルをEVで払拭することを狙う。

 排出ガス規制が各国で強化されるので世界の自動車メーカーは急いでEVの品揃えを増やさなければならない。これは、市場(消費者)の選択による変化ではなく、政府の強制力で市場を変化をさせる試みだ。だから、すでに各国で複数のメーカーがEVを販売しているが、好調に売れてマーケットシェアを拡大している車種はまだない。

 米テスラがEVの成功例にあげられたりもするが、決算は赤字続き。まだ先行投資の段階が続いているのか、経営戦略がまずいのか、「夢」を売っているだけの会社なのか判断は分かれるが、試乗記ではテスラ車は概ね好評のようだ。ただ、テスラも高価な車であり、日本のメディアの試乗記で高価な車を酷評することはまずない。

 ところで、EVはガソリン車などと同じ基準で評価すべきなのか。自動車であることは共通するので、同じ基準で評価することは間違ってはいないだろう。だが、電気モーターだから瞬時にパワーが出るのでEVは加速が良く、重いバッテリーを床下に積むので重心が低く安定した挙動になる。ガソリン車などとEVの構造の違いを峻別して評価する試乗記は少ない印象だ。

 各国政府がEVへの転換を促すのは環境保護を優先させる政策の一環だ。EVに求められるのは、社会との調和を優先させることだ。スポーティーさよりもエネルギー効率を最優先した移動手段になることがEVのあるべき姿だろう。環境に優しいとともに、社会にも優しい車がEVであるとすれば、EVの試乗記にはガソリン車などと異なる評価基準が必要になる。鋭い加速や強烈なパワー、スポーティーな走りなどを重視することはEVに似合わない。