望潮亭通信

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オピオイド中毒と経済活動

 米製薬大手パーデュー・ファーマが破産を申請した。同社の処方鎮痛剤「オキシコンチン」は麻薬性鎮痛薬オピオイドだ。同社は違法な方法で広く大量に「オキシコンチン」を販売、医師に処方させ、米国におけるオピオイド中毒を加速させた。同社は07年に罰金6億ドルの支払いに応じたが、さらに州レベルなどで数千件の訴訟が起こされている。

 訴訟の和解が裁判所に認められれば、同社の総資産を新たに設立する機関に移し、最大120億ドルを支払うという。だが創業一族の大富豪サックラー家が和解に向け支払う額は30億ドルとされ、一族の総資産130億ドルに比べ少なすぎるとの批判が出ている。同社のオピオイド系鎮痛剤の売り上げは累計で約350億ドルという。

 米国で蔓延したオピオイド中毒の責任をめぐってオクラホマ地裁は8月、ジョンソン・エンド・ジョンンソン(J&J)に5億7200万ドルの制裁金を命じた。J&Jが中毒性のある鎮痛剤のリスクを矮小化し、事実誤認につながる形で宣伝するマーケティングを展開し、自社利益を追求していたとの主張を裁判所が認めた。

 J&Jが「依存症リスクは低く、重度ではない慢性的な痛みにも有効だ」と宣伝していたことが審理で明らかになり、医師による鎮痛剤の過剰処方につながり、オクラホマ州での中毒死を急増させたと州側の弁護士は主張した。J&Jは原料成分の生成で全米6割のシェアを持ち、他メーカーにも供給していたという。

 米国では1999~2017年にオピオイドが関係する薬物の過剰摂取で約40万人が死亡し、2018年の死者は4万7000人(処方されたオピオイドや非合法のオピオイドによる死者)。オクラホマ州では2000年以降に約6000人がオピオイドの過剰摂取で死んだという。

 オピオイドを全米で大量に販売したことで製薬会社や流通業界は莫大な利益を得ていたとみられ、医師に処方されたオピオイド系鎮痛剤を入り口にヘロインなどの薬物の依存症になった人も多いとされる。オピオイドの乱用者は1200万人、オピオイドの蔓延による米国の経済損失は2015年で5040億ドルとの試算もある。

 また、合成オピオイドの「フェンタニル」はモルヒネの50~100倍強力で、主な供給源は中国とされ、偽装して郵便で米国に送り込まれているという。米国からの批判に対して中国の政府系メディアは「乱用の責任は使用者にある」と反論した。

 利益のためには手段を選ばないのが企業であり、オピオイドの流通に対する麻薬取締局の調査を制限する法律を連邦議会で成立させるほどの影響力を持っていた。人々を依存症にさせる商品を販売し、多数の中毒者と死者を出しながらマーケットを開拓し、大規模な産業に成長させた企業や業界や商売人。政治が資本に支配された結果でもある。