望潮亭通信

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制裁関税や報復関税

 米国は9月1日、1120億ドル分の中国製品を対象に15%の追加関税を課した。半導体モリーのほかテレビなどの家電や衣料品、靴、時計、スポーツ用品、楽器など消費財を中心に3243品目が対象。これにより中国からの輸入額の約7割に制裁関税が課された。

 さらに米国はスマホやノートパソコン、玩具など550品目、計1600億ドル分に対して12月15日に15%を課す。年間で最も消費が盛り上がるクリスマス商戦に配慮して先送りしたものだが、これが実施されると、中国からの輸入品のほぼ全量に制裁関税が課される。また、すでに25%の関税を上乗せした2500億ドル分についても10月1日から関税上乗せを30%に引き上げるという。

 中国は一歩も引かず、計750億ドル分の米国製品に5~10%の報復関税を課すとし、まず9月1日に原油や大豆など1717品目に報復関税を課し、自動車など3361品目には12月15日に課す。すでに米国からの輸入額の7割には報復関税を課しており、新たな報復関税は上乗せになるものが多い。

 米国も中国も相手国からの輸入額の7割に関税を上乗せしたが、双方とも強気の対抗姿勢を崩していないので、関税を高め合う制裁合戦が収束する見通しは立っていない。両国では民衆レベルでも対立意識が高まっている気配で、国内政治的に両国とも先に譲歩する姿勢を見せることが難しくなったように見える。

 このまま両国が関税を互いに高め合って、ほぼ全ての輸入品に高い関税を課し合えば何が起きるか。他国からの代替輸入に切り替え可能なものは切り替えるだろうが、他国からの代替輸入が困難な品目は品薄になるとともに値上がりする。値上がりの度合いによってはインフレ懸念も出てこよう。

 「欲しがりません、(貿易戦争に)勝つまでは」と両国の消費者が、高い関税による輸入品の値上がりと品薄に「愛国的」な態度を示して消費を抑制するなら、制裁合戦が両国経済に与える影響は限定されるかもしれないが、両国ともに消費者の消費意欲は旺盛なので、輸入品の値上がりにどこまで耐えられるかがカギとなる。

 この制裁関税合戦は、米国と中国の覇権をめぐる争いだとの解釈は珍しくない。欧米日の大企業の低賃金生産地として経済成長を遂げた中国は、豊富な資金で独自の技術力を高め、分野によっては米国を凌駕するまでになった。世界への輸出基地として成長した中国が制裁関税合戦では劣勢だろうが、中国は国家が優先する資本主義だから劣勢だからといって譲歩する可能性は低い。この貿易紛争に中国が勝ったなら、それは国家資本主義の優位を示す。