望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

供給過剰になったマスク

 出歩く時にマスクを着用することはマナーからルールになったようで、マスクを着用していない人を見かけることはほとんどない。とはいえ、鼻出しマスクの人は珍しくなく、あごマスクで口も鼻も覆わずにいる人も見かける。周囲に他の人が少なく、路上で密になることがないならマスクを外しても構わないだろうに。あごマスクの姿の大人からは、だらしなさが漂う。

 常にマスクを着用することに鬱陶しさを感じる人は多いだろうし、健康な人ならマスク着用を面倒くさいと思うだろう。パンデミック前はマスク着用が一般的ではなかった米国ではマスク着用を拒否する人が珍しくなく、マスク着用を求める店舗や交通機関などとトラブルになっているという。一方、ワクチン接種者が増えた国ではマスク着用の義務を緩和したところも増えている。

 マスクを着用する目的は飛沫感染を防ぐことだ。誰もが無症状の感染者だとみなして呼気に含まれているかもしれないウイルスの拡散を抑制する。ウイルスを吸い込まないためにマスクを着用するのではない(ウイルスを吸い込まないためには医療用マスクが必要。密閉度が高いから日常生活で着用していると息苦しいそうだ)。

 パンデミックが終息する気配はなく、マスク着用から人々が解放される見通しはつかない。機能からは不織布マスクがいいと専門家は推奨するが、人々が着用しているマスクはカラフルで、白い不織布マスクが圧倒的に多いとはいえない状況だ。様々な色でデザインも個性的なマスクが増えたが、それらの前面に折り目がないので不織布マスクではないだろう。

 パンデミックが始まった頃は店頭からマスクが消え、マスクを探して市中を探し回る人もいたという。そのマスクが現在、店頭に山積みになっている。マスクが再び出回り始めてからは30枚入りで2千円台などで売られていたのが、供給が回復するにつれて5百円台や4百円台になった。機能やファッション性を訴求する7枚入りで3百円台などもあるが、飛ぶように売れている様子は希薄だ。

 マスクであれば何でも売れたのは過去のこと。特色を出さなければ売れないとメーカーは、耳が痛くならないとか眼鏡が曇らない、着けていても涼しいとか様々な機能を加えたり、デザインに工夫を凝らしファッション性をアピールしたりする。個性をアピールしなければ選ばれなくなったのは、市場に商品が溢れている状態だ。参入企業が相次ぎ、中国からの輸入も増え、マスクは供給が需要を上回る状況になった。

 百円ショップでは、30枚入りで百円プラス消費税で売られていたマスクがパンデミックが始まると3枚で百円プラス消費税と値上がりしたが、やがて5枚で百円プラス消費税、7枚で百円プラス消費税、10枚で百円プラス消費税、15枚で百円プラス消費税と値下げが続き、最近になってパンデミック前の30枚入りで百円プラス消費税が復活した。店頭に山積みになっているマスクは、需要と供給を考察する格好の具体例だ。