望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

テクニカルやドローン

 一般向けに販売されているピックアップ・トラックの荷台に重機関銃やロケット砲などを取り付けた戦闘車両をテクニカルと呼ぶ。アフリカや中東などで各地の武装組織が、機動性に富む安価で相対的に強力な兵器として使用している。ISがテクニカルを連ねてパレードする映像はテレビなどの報道番組でよく使われていた。

 テクニカルが活躍するのはゲリラなどの武装組織が活動する、治安が保たれていない平坦な土地だ。正規軍の戦闘車両に比べるとテクニカルの攻撃力は劣るが、正規軍が不在だから治安が崩壊している。そんな土地で、銃しか持たない戦闘員や非武装の民間人に対してテクニカルの戦闘力は圧倒的だろう。

 一般向けに販売されているドローンも中東などで戦闘に使われているというが、軍事用に特化したドローンの威力を見せつけたのが、サウジアラビアの石油施設に対する攻撃だ。サウジの原油生産の大幅減少を予想して世界の原油市場は揺れ動いた。

 サウジは2017年、米国から計1100億ドルの武器を買う契約をし、88基のパトリオット・ミサイルを配備した(18年の武器購入額は650億ドルで、大半が米国から)。サウジは米国から大量かつ多額の武器を購入し続けており、防衛体制を固めていた。だが、1基が数億円とされるパトリオット・ミサイルは1機が数百万〜数千万円と推定されるドローンによる攻撃を防ぐことはできなかった。

 実際にサウジの防空用レーダーがドローンを探知できたのか、探知できたとしてパトリオット・ミサイルが発射されたのか詳細は明らかではない。仮にレーダーがドローンを探知し、ミサイルが発射されてドローンを破壊できたとしても、高価なミサイルを使って安価なドローンを打ち落とす構図は不合理だ。

 この「成果」で安価なドローンの攻撃用武器としての能力が確かめられた。航続距離が1000km以上になるドローンもあり、精密に目標を攻撃できるなら軍事施設に限らずインフラ施設や企業の工場なども標的になる。また、各国は小型ドローンの性能向上に励むだろうから、各種のドローンが大量に使われるようになり、戦闘の様相は大きく変化するだろう。

 テクニカルも正規軍の戦闘車両に比べると、はるかに安価だ。ピックアップ・トラックや小型ドローンなど民生品を武器に変えることで武装組織の戦闘力は高まり、各地で武装組織の活動を活発化させてもいる。高価な武器を装備する正規軍と、安価な武器で破壊力を高める非正規軍という非対称性が顕著になった。