望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

地階に電源

 台風19号は広範囲に大量の降雨をもたらしたが、武蔵小杉の駅近くの47階建てタワーマンションで地下に浸水、配電設備が損傷して停電し、エレベーター停止や断水などで居住者は生活に大きな支障を被った。タワーマンション地震や強風には耐えるとされるが、電気が失われると居住者は不便な生活に直面する。

 このマンションは、駐車場への浸水を防ぐことができず、地下の配電設備が機能を失ったと見られる。シャッターや土嚢などで地下への浸水を防ぐことができなかった事情は明らかになっていないが、タワーマンションが電気を失うと過酷な生活環境になることは証明された。

 20階以上のタワーマンションを含め高層マンションは全国に増えており、配電盤などは地下に設置されていることが多いという(1階や2階などに配電設備を設置すると分譲スペースが減る)。地下スペースも駐車場などに利用するため、浸水しないように地下を密閉することは少ないともいう。

 2011年3月に福島第一原発地震による停電で外部電源を失い、さらに津波に襲われて浸水、地下に設置されていた非常用電源などが損傷し、全電源喪失に至った。メルトダウンが起き、やがて水素爆発で原子炉建屋などが吹き飛び、放射性物質が大気中に放出された。

 外部電源が失われた時にも非常用電源の機能が失われず、原子炉を冷却することができていれば、メルトダウンも水素爆発も防ぐことができたと見られている。巨大な津波を想定して非常用電源を海面から高い場所に設置していれば、あの事故は防ぐことができ、福島の復興も早かったかもしれないと想像すると、浸水が想定される地下に非常用電源を設置していた怠慢は非難に値する。

 現代の社会は電気の利便性に大きく依存している。電気が失われた時に社会は大混乱し、個人の生活環境も一変、いかに不便を強いられるかを北海道のブラックアウトや千葉の大規模停電が実証した。といって、もう電気に頼らない社会や生活に戻ることはできない。災害の中でも電気の安定供給を保つことは現代社会の最優先事項だろう。

 建物の地下に電源や配電設備などを設置することの危険性、脆弱性は明らかだ。地下に電源や配電設備などを設置したのは、洪水や津波による浸水を軽視していた現れだが、考えうる最悪の事態を想定しないのは設計のミスだ。そうしたミスで居住者や周辺の人々が苦しい生活を強いられている。