望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

人口減少地域における鉄道事業

 各地を結ぶ長い距離のレールを敷き、駅を設置し、安全を確保しながら列車を走行させるという鉄道事業は固定コストが大きい。乗客が減ったからと1両編成にしたところで、一定の費用は常に必要となるため、運行コスト削減には限度がある。乗客数が減り続け、1両の列車を走らせてもコスト割れが続くようになったなら、そうした土地で鉄道事業を続けていくことは商業ベースでは不可能になる。

 乗客数の回復が見込めない中で乗客輸送事業を続けていくには、固定コストを削減するしかない。鉄路を廃して保線コストをなくし、公道をバスで走るようにすることが現実的な唯一の選択肢だろうが、鉄路の廃止には地域が反発する。公共サービスとして発展してきた歴史が鉄道にはあることと、鉄路の廃止が過疎化に拍車をかけるとの懸念があるのだろう。

 根本にあるのは、鉄路を維持していくだけの乗客数が見込めないほど人口が減少していることだ。収益を上回るコストがかかっても、公共サービスならば続けなくてはならない場合もあろうが、民営化されて私企業の形態になったなら赤字の垂れ流しを続けることはできなくなる。つまり鉄道事業を続けるためには、行政からの財政支援が必要になる。

 数年前にJR北海道が単独では維持が困難な10路線13線区を発表したが、それは全路線のほぼ半分にもなる。北海道内の路線はほぼ全線が赤字だといい、発表された10路線13線区は特に乗客が少なく単独では維持困難で、バスへの転換や、自治体が鉄道施設を保有してJR北海道は運行に専念する方式に移行することを求めた。

 自治体に財政支援する余裕があれば、住民の生活を支援し、農産物の大量輸送を確保するためにも鉄道を維持することに動くだろうが、過疎が進む地域の自治体は財政的にも厳しいところが多い。現実的に考えると、国と北海道による支援がなければ鉄路は維持できず、バスへの転換は避けられまい。

 冬の寒さが厳しい広大な北海道では鉄路を維持するだけでも多額の固定費がかかるが、人口の減少傾向が続く一方で、高速道路網は拡大している。北海道の交通の在り方について国と北海道にビジョンがあるとすれば、それは鉄道には重きを置いていないだろう。人口減少地域における鉄道事業は、観光目的などに重点を移す以外に生き残りは厳しい。

 人口減少が続き、需要の総量が減る地域で、続けることができる事業は公的支援を得ているものか、地域外の需要を相手にするものだけだろう。駅まで来た人々に乗ってもらわなければ成り立たない鉄道事業は地域の人口減少には脆弱すぎて、私企業として放り出された時から、赤字による経営破綻は必然だったのかもしれない。