望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

普遍性を捨てて個別利益を追う大国

 冷戦期の2大大国は米国とソ連だった。それぞれに自国の個別利益を追及しながら、同時に米国は自由主義ソ連社会主義という普遍的な理念のモデル国家でもあることを自認し、また、他国にも認めさせることで大きな影響力を持っていた。

 ソ連は崩壊してロシアになったが、ロシアには他国と共有できる普遍的な理念はないので、ただの地域大国となり、軍事力と豊富な資源で他国に影響力を及ぼすだけになった。冷戦後も米国は自由主義という普遍的な理念のモデル国家としての位置を保ち続けている。

 ソ連に代わって米国と張り合うようになったのが中国。外国からの資本・技術導入により成長した発展途上国の成功モデルであり、急速に世界第2の経済大国に上り詰めたが、中国は普遍的な理念のモデル国家になることはできなかった。中国の歴史に基づく普遍的な理念(「天下(中華)」概念)はあるのだが、それを共有するのは朝貢していた歴史を持つ国ぐらいだろう。

 中国が国際的な影響力を発揮するためには、世界各国で援助をばらまき、巨額の開発投資を行うなど資金を見せつけるか、最近の海洋進出に見られるように軍事力を見せるしかない。西欧主導の国際秩序に異を唱えることを中国は辞さなくなったが、それは中国が独自の普遍性を認めさせようとの試みでもあろう。

 国家ではないもののEUは巨大な経済圏を構築した。経済活動だけでなく人の移動も自由にし、各種の権利を重視するなどリベラルな理念による地域世界を構築、国家融合という普遍的な理念のモデルとなりそうだが、国家主権の委譲はハードルが高く、同様の経済体を構築しようとする国々は現れない。

 普遍的な理念のモデル国家ではないが地域大国であるロシアと中国に対し、自由主義のモデル国家として米国は世界に大きな影響力を有していたが、ここに来て自国の個別利益の重視に舵を切り、自由主義のモデル国家であることを放棄し始めたように見える。それは米国が、ただの地域大国に転じることを意味する。

 自国の個別利益を最優先することは国家として当然であるが、普遍的な理念のモデル国家が存在しなくなる世界とは、むき出しの個別の国家利益がぶつかりあう世界であり、おそらく弱肉強食と合従連衡に満ちた世界であろう。EUも解体に動くのなら、国家の復権国家主義復権にもつながる可能性が高い。