望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

国家資本主義に覆われる

 冷戦期に共産主義国家では資本が国家権力に従属し、資本主義国では国家権力が資本に従属していた。どちらも、資本と国家権力が結びついていることでは同じだから、民衆に向ける「顔」にはさして違いはなく、自由選挙で政府が選ばれる国でも、歯向かう人々には程度の差はあれ国家は強権で臨んだ。

 やがて、ソ連などの持続できなくなった共産主義国家が次々に資本主義国へと移行し、北朝鮮など共産主義国家として残った弱小国は衰退を続ける一方、中国は共産党独裁支配の資本主義国へと移行した。中国のような体制は、国家権力が資本を創出して資本と一体化した構造といえる(国家資本主義)。

 冷戦は資本主義の勝利に終わり、共産主義の脅威は消え、資本主義に代わる体制はないと見なされるようになり、自己抑制をやめた資本は富の収集のために遠慮することがなくなった。資本に従属する国家権力は労働者の保護策を緩め、再分配から富者の尊重へと税制を変え、過酷な収奪を社会的に正当化し、富の偏在を促すようになった。

 そして2017年。大富豪のトランプ氏が米国大統領に就任し、巨大企業の経営者が政権入りするなど資本が国家権力を直接握ったような光景だ。大幅減税や環境規制の緩和、米国の利益を最優先した貿易政策への転換などが進められ、オバマケアなど低所得者向けの政策は見直しの対象になった。

 資本と国家権力の融合という意味では米国も国家資本主義に向かう格好だ。ただ、形成過程は異なり、中国では国家権力が資本を育てて一体化したが、米国では資本が国家権力を直接握ることにより一体化する。

 米国で自由や民主主義などの理念が放棄されることはないだろうから、資本が国家権力を握り続けることができるか不明で、中国流の国家資本主義ほど強固ではないだろう。だが、米国流の国家資本主義が強欲さを発揮し始め、世界経済に大きな影響を及ぼす。

 富の収集への欲望が原動力である資本主義は格差拡大を内包するが、国家資本主義ではいっそうの格差の拡大を伴うだろう。米国や中国などの国家資本主義が国内外での不平等を促進し、政治的にも世界の不安定要因となる。