望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

偏西風と暖冬

 この冬は暖冬で雪が少ない。気象庁は、昨年12月以降「東・西日本を中心に気温がかなり高く、日本海側では降雪量が記録的に少なく」、2月にかけても「本州付近への寒気の南下は弱く、北日本から西日本の気温は平年より高く、日本海側の降雪量は平年より少ない見込み」とした。

 暖冬の原因として気象庁は、①日本付近において偏西風(亜熱帯ジェット気流)が北に蛇行した、ことを指摘する(熱帯付近の積雲対流活動がインド洋西部付近で平年よりも活発で、インドネシア付近では不活発となったことが影響した)。

 さらに、②正の北極振動により、寒気は北極域から中緯度域に南下しにくくなった。バイカル湖の北から沿海州付近で寒帯前線ジェット気流が明瞭となり、東シベリア付近の寒気が弱くなった、という(正の北極振動は、北極域の海面気圧が平年より低く、中緯度域の海面気圧が平年よりも高くなる現象)。

 正の北極振動がある一方、負の北極振動もある。それは、北極域の海面気圧が平年より高く、中緯度域の海面気圧が平年よりも低くなる現象。正の北極振動がある時には北極付近に寒気が蓄積され続け、負の北極振動では北極付近に蓄積された寒気が、中緯度地方に向かって放出される。

 大気は気圧の高いところから気圧の低いところに向かって風となって流れる。北極付近の気圧が高い時には蓄積された寒気が周囲(中緯度地方)に向かって流れ出すが、北極付近の気圧が低い時には寒気が周囲に流れ出さず、寒気が閉じ込められる状態になる。それが、この冬。

 気圧差を利用して空気の流れを制御することは日常でも多く、例えば、東京ドームは内部気圧を外より0.3%高くして屋根膜を支え、精密機器の製造に欠かせないクリーンルームは内部気圧を高めて外からの浮遊塵の侵入を防ぎ、病院には大気圧より高い気圧環境の中で酸素を吸入させて治療する設備がある一方、感染症患者を治療する病室は病原体を閉じ込めて拡散を防ぐため陰圧にする。

 気象に少しでも変調があると、すぐに気候変動と結びつける風潮が珍しくなくなったが、この暖冬は地球温暖化論を引っ張り出さなくても説明できた。北極からの寒気が張り出して北米などに大寒波をもたらしたことは過去に何度もあったから、北極振動の影響は「通常」の気象現象で、暖冬もあれば厳しい寒さの冬もあるのは「異常」気象ではない。