望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





海氷が減ったが

 2012年の冬は寒かった。気象庁の発表(3月1日)によると、 この年の冬の特徴は、1)北日本から西日本にかけて12月、1月、2月と3カ月連続低温で、冬の平均気温が低かった、2)日本海側では平成18年豪雪に次ぐ積雪、3)沖縄・奄美での冬の日照時間は1946年以降最も少なかった。



 気象庁は異常気象分析検討会の分析結果を2月27日に発表しており、そこではこの冬の特徴を、1)ユーラシア大陸の中緯度帯で低温となり、カザフスタン、 モンゴル、中国北部では顕著な低温となり、1月後半~2月前半は中央アジアからヨーロッパにかけて顕著な寒波に見舞われた、2)北日本、東日本及び西日本で低温となり、寒気のピーク時には大雪となり、北日本から西日本の日本海側では最深積雪が多くの地点で平年を上回った、とした。



 さらに大気の流れについて、1)大西洋からユーラシア大陸にかけて偏西風の蛇行が大きくなった、2)シベリア高気圧の勢力が非常に強くなり、日本付近では強い冬型の気圧配置になった、3)日本付近で偏西風が南に蛇行し、強い寒気が流入した……とし、そうなった要因として、偏西風の蛇行にはラニーニュ現象の影響を挙げるとともに、 北極海バレンツ海付近の少ない海氷が関連してシベリア高気圧が強まった可能性を指摘した。



 日本付近で偏西風が南に蛇行したから、強いシベリア高気圧がもたらす寒波が日本列島にも届いたという説明は以前の冬にも耳にしたことがあるが、北極海の海氷減少と寒波を関連させたのは目新しい。でも、北極海の海氷の減少は以前から指摘されていたことであり、この冬に始まったことではない。なぜ、この冬にだけシベリア高気圧に影響を与えたのか因果関係がはっきりしない。



 専門家の中には、1)北極海氷が大きく減少すると大気循環に変化が起き、その影響で、北極周辺から南に移動する寒気団が勢力を増し、範囲も南方向に拡大、2)海氷が融解して海水面積が広がると、より多くの水蒸気が大気中に放出され、水蒸気が広範囲に拡大した寒気により冷やされ、地上に大量の雪が降る、との説を主張する人もいる。



 ただ、これは仮説の段階でしかない。北極海の海氷が減ったことで大気中に含まれる水分が増え、その水分が雪をもたらしたという説は素人にも分かりやすいが、単純すぎないかな。海氷の減少量、大気中の水分増加量の変化を数値で出し、増えたという大気中の水分が、どこにどれだけ雪として降ったのか、客観的な説明は専門家にもまだ、できないだろう。



 地球規模で常に変化している気候現象のメカニズムを解明することは、膨大なデータの収集・分析が必要であり、複雑極まる。単純化してとらえることは、袋小路に陥った時などに、全体を見直すために有効なのだろうが、仮説に過ぎないものが一人歩きしているような利用のされ方を見ていると、きちんとした検証がスルーされかねない弊害の大きさの方が目立ってしまう。