望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





南岸低気圧と大雪

 冬型の気圧配置といえば「西高東低」。大陸から太平洋に向かって北西の風が吹き、日本列島の日本海側に大雪を降らせる。この時期には低気圧は偏西風に乗って日本海辺りを西から東へと進むことが多い。冬型が緩み、寒気の勢力が強く張り出している時などには低気圧は日本列島の太平洋岸を東進する。これが南岸低気圧だ。



 南岸低気圧は東京などに雪を降らせることが多いが、2014年2月に周期的に現れた。特に2月14、15日に太平洋側を東進した低気圧は関東甲信などに記録的な大雪をもたらし、甲府で積雪114センチ、前橋市73センチ、宇都宮市32センチ、秩父市98センチ、熊谷市62センチ、河口湖143センチなどと各地で観測史上最多の積雪を記録した。



 大雪により新幹線や空の便の運休・欠航が相次いだほか、高速道路も各地で通行止めとなった。山梨県や長野県など各地で積雪で道路が通行できなくなり孤立する集落や町村が続出、一時は6都県で9千人以上が孤立した。動けなくなって方々の道路で立ち往生する車も多く、JRの各駅にも動けなくなった列車が立ち往生した。



 大雪による農業ハウスや牛舎、車庫、アーケード屋根などの倒壊も各地で相次ぎ、物流が停滞したことでコンビニなどの棚が空になったり、食材が届かず外食産業でメニューが制限されたり、部品の供給が阻害されたため自動車工場の操業が止まったほか、入荷がストップしたため野菜の価格が跳ね上がったことなど大雪の影響は広範囲にわたった。



 数日で積雪が1メートルを越えるのは豪雪地帯でもたびたびあることではないが、それが、あまり雪が降らない地域で起きたのだから、大混乱するのは当然か。想定外という言い訳は東日本大震災以来、許されなくなった印象もあるが、関東甲信における今回の豪雪は想定外というしかないだろう。地震は日本のどこでも起きるだろうから、全自治体で想定すべきだが、あらゆる気象条件に備えることを全自治体に求めるのは無理だろう。



 気象庁は「30年に1回程度で起こる現象」を異常気象と定義している、観測史上最多の積雪となったので間違いなく異常気象だろうが、あわてて温暖化論を持ち出す必要はない。南岸低気圧による大雪は過去にも繰り返し起きているし、30年に1回ということは、長い人生で2、3度は体験するだろう気象現象だ。



 今年は米国も強い寒波に襲われた。米国の気象学者は、北極地方の気温上昇により北半球のジェット気流(偏西風)が弱くなるとともに大きく蛇行するようになり、南側に蛇行した地域では寒気を南下させ、北側に蛇行した地域では気温上昇をもたらすようになったとする。



 偏西風の蛇行と気象の関係は以前から指摘されていたことであるが、北極の気温上昇によるものだとするならば、同じことが、これから毎年起きるはずだ。あわてて温暖化論に飛びつかなくても、理解することができる異常気象は珍しくはない。