望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

「現実」を先に知る人々

 2014年の2月中旬に関東甲信などで記録的な大雪になり、道路が通行できなくなって11都県50市町村で1万9000人近くが一時孤立状態になった。集落ごと孤立したところもあり、1週間経ってもまだ雪が残り、4都県で2百人以上が孤立状態と伝えられるなど、影響は長引いた。この大雪で全国で24人死亡、約600人が負傷し、全壊した住宅は62棟、半壊・一部損壊は381棟という。



 当時、大雪が降り続く中でネットには各地から降雪状況が、道路に連なって立ち往生している雪まみれの車両の映像などと一緒にアップされ、道路が閉ざされて孤立した集落からも状況を知らせる情報がアップされて、大変な事態になっているとの認識が広がった。東京では、渋谷のハチ公の雪像などが面白がられていたが。



 ネットでは一方で、大雪の時に「情報の発信がない」「動きが鈍い」などと官邸の対応が批判されたり、テレビのニュース番組などで取り上げられなかったことに疑問を呈するコメントも多かった。ネットを見ていると、大雪が降っている中で、どこで何が起きているかをリアルタイムで知ることができるのに、「政府が動かない」ように見え、「マスコミが報じない」ように映った。



 ネットには各地から多くの細かい情報がアップされ、人々は次々に流し読みしているだけで、進行中の「現実」に気付き、起きていることの全体像をつかむこともできるようになった。いわば、進行中の事態の目撃者となることができ、「政府は何をやっているのか」「マスコミはなぜ黙っているのか」などと、当事者感覚で怒りを共有する。



 事件の現場に行かなくても、現場にいなくても、ネットを見て人々は目撃者感覚を持つことができる時代になったが、そうはいかないのが記者。何かが起きていても、自分で確かめるか、信頼できる裏付けをとることができなければ、ニュースとして報じることはできない。今回の大雪のように「現場」が広範囲では、取材の人数も大掛かりになろうし、「現場」に到着するのも簡単ではなかろう。



 誰でもネットで情報発信できるようになり、誰でも「現実」をリアルタイムで知ることができるようになったが、マスコミが伝える情報は、記者が取材したものだけである。つまり、マスコミが報じる前に、多くの人はネットで「現実」を知るようになった。



 そのうちに、ネットをフル活用して、様々な「現実」を時々刻々と伝え続けるニュースサイトが誕生するかもしれない。今回、マスコミ批判が出たということは、まだ、マスコミへの期待感が残っているからだが、マスコミがネットを活用した素早い取材体制を構築し、素早く情報提供を行うように改革していかなければ、情報発信が遅い既存のマスコミの存在感は急速に見劣りしていくだろう。