望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

問題意識の拡散

 インターネット上には、何かの出来事や動きを取り上げて「なぜ、これをマスコミは報じないのか」とのマスコミ批判が珍しくない。マスコミが報じない理由は①その出来事や動きを知らない、②取材中、③事実確認ができない、④ニュース価値がないと判断、⑤取材して記事化したが他のニュースが優先されボツになった、⑥取材が阻まれたーなど様々だ。さらに、ニュース価値の判断がマスコミ批判をする人とマスコミで大きく異なっている可能性もある。

 ニュース価値の判断は問題意識によって異なる。例えば、与党の有力政治家の発言は政局などに影響を与える可能性があるからマスコミは丁寧に伝えるが、大半の人は無視するニュースだろう。関心を持たない出来事や動きのニュースに大半の人は反応しない。「なぜ、これを報じないのか」とのマスコミ批判は自分の問題意識を表しているだけか。

 価値観や蓄積された知識量、イデオロギーなどに影響されて関心を持つ対象が個人により異なるので、問題意識は様々。日本で世界で起きる多くの出来事や動きの中で、どういう出来事や動きに注目するかは、どういう問題意識を持つかで異なる。企業体であるマスコミもそれぞれの問題意識を有するので、報じるニュースに各社の「個性」が現れたりする。

 問題意識は、現実を価値で照合したときに生じる。例えば、環境は良好に保全されなければならないとするから環境汚染が問題として意識され、政治は金で左右されてはいけないと考えるから政治家や官僚の汚職が問題として意識される。そうした問題意識の集まりが価値観を形成し、イデオロギーなどにもつながり、世の中の出来事や動きの中から問題だとするものを選び出す。

 価値観やイデオロギーは鋭い問題意識を呼び起こす。そうした問題意識は取材対象を選ぶところから影響するだろうし、取材にも方向性を与え、時には取材の結果をまとめる時にも方向性を与えるかもしれない。取材者の問題意識が強い場合に、どこまで取材結果に影響を与えたのか、それを外部から知ることは簡単ではない。

 「なぜ、これをマスコミは報じないのか」との批判がマスコミを動かすこともある。最近の成功例は「人為的な地球温暖化論」だ。環境運動団体などが気候変動問題として拡散させ、CO2の排出削減という問題意識を世界規模でマスコミを動かして人々に共有させることに成功した。マスコミが報じる問題意識は人々に影響を与え、気候変動という問題意識を人々も持つようになった。

 組織的に特定の問題意識を世間で広めることは珍しい行為ではなく、強権国家では国家が人々の問題意識を誘導・強制し、民主的な国家では様々な団体や企業が特定の問題意識の拡散を試みる。団体や企業は、論理的な説得スタイルに人々の感情を揺さぶる情緒的なアピールを交え、人々に自発的に問題意識を持ったと思わせることを狙う。特定の問題意識を人々が共有すると、それが社会の価値観となって人々を束縛することもある。