望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

生命の存在

 宇宙はあまりにも広大なので39光年という距離は“近い”といえる。太陽系から39光年離れた恒星トラピスト1は太陽の10分の1弱の大きさだが、7つの岩石惑星が周回していることが確認され、惑星と主星(恒星)の相対的な大きさが生命の誕生に理想的であることから、生命が存在する可能性が言われている。

 といっても、恒星トラピスト1の出す光は弱く、7つの惑星は近いので互いに影響しあっており、惑星表面の環境がどうなっているのか不明だ。何らかの大気や生命が存在したとしても、地球とは異なる環境であろうから、外観はもとより、生命活動の原理も異なっているだろう。生命が存在する徴候をどう発見するか簡単ではない。

 地球上には様々な形態の生物が存在するが、同一の祖先を共有しているという。約40億年前に原始生命が発生し、数億年後にバクテリアが出現、約27億年前に光合成が開始され、21億年前に真核細胞が出現、10億年前に多細胞生物が出現して、5.5億年前に硬骨格生物が出現したというのが地球における生命の歴史だ。

 この原始生命の出現時期が少し遡るかもしれない。カナダ・ケベック州の37億7000万~42億9000万年前に形成された岩石に微生物の痕跡があったという。周辺に熱水噴出孔の痕跡も見つかり、生命は深海の中央海嶺で誕生したという深海熱水起源説もあるので、地球最初の生命体の生息地だった可能性さえ取沙汰されている。

 45.6億年前の地球誕生から40億年前までの5億年間は冥王代と称される。原始の地球はマグマの海に覆われ、次いで原始海洋に覆われた後、現在まで地殻変動を絶え間なく続けてきたので、冥王代の岩石が地表に現れている場所は少ない。地球最古の生命の痕跡は冥王代の岩石から発見されている。

 現在を生きている人間の誰もが、約40億年という長い生命のリレーの結果として存在している。どこか一カ所で途切れたなら、その生命のリレーは終わった。地球史を振り返ると何度も、地球上の生命のほとんどが死ぬ大量絶滅が起きている。そうした危機をくぐり抜けて生命のリレーを続けてきた。

 生命は、膜・代謝・自己複製の3つにより定義されるというが、恒星トラピスト1を周回する7つの惑星に生命が存在するなら、地球と同じ生命の定義をあてはめることができるのか不明で、想像もつかない生命がいて、想像もつかない生命のリレーを行っている可能性もある。