望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

歌手の評価法

 上手に歌うことはプロの歌手として当然だと思われがちだが、何を歌っても上手な人がいる一方で、プロとしては声域が狭かったり声量に制約があったりして歌う曲が限られる人もいるし、見た目は可愛いけれど音程が不安定で素人レベルの人もいる。自作の歌を個性的に歌うだけの人もいて、プロ歌手といっても様々だ。

 素人レベルの歌唱でもヒット曲を連発する歌手もいるから、歌の上手下手と人気は比例しないことが判る。プロ歌手の評価が、売れるか売れないかで決まるとするなら、上手に歌うことはプロ歌手の評価において、重要ではあるが決定的な要素ではないと見えてくる。

 上手に歌うことが決定的要素でないとすれば、プロ歌手を客観的に評価する方法は何か。様々な個性のプロ歌手が存在するので、評価の基準は一様ではありえないだろうから、聞く側の好み・好き嫌いで評価が決まることになる。好み・好き嫌いは個人差が大きく、また、歌は世につれ……などというように世相との関係も無視できないだろう。

 プロ歌手の評価は聞く側が勝手に好き嫌いで決めればいいとしても、その評価基準に何らかの共通性を持たせることができれば、各人の好き嫌いの様相が見えてくるだろう。そこで、プロ歌手を10点満点で評価する簡単な方法を考えてみた。10点満点のうち5点は歌唱力の評価に当て、あとの5点は演出の評価に当てる。

 歌唱力の評価が10点満点の半分の5点しかないのは少ないようにも感じられようが、プロ歌手として観客を楽しませる華やかさも大切だから、衣装や演出を軽視することはできない。突出した歌唱力を発揮するプロ歌手なら簡素な衣装・背景で十分で、演出が邪魔になることもあろうが、そうした簡素な衣装・背景が歌の効果を高めているのだとすれば、高く評価されよう。

 歌唱力も演出も、5点評価のちょうど中間の3点を、これくらいはプロ歌手としては当然だという水準に達している標準とし、そこに加点したり減点したりする。1点は「ひどく悪い」、2点は「悪い」、3点は「普通」、4点は「良い」、5点は「大変良い」になる。

 歌唱力の評価では、3点を「プロ歌手として充分な歌唱力と表現力を持ち、それを発揮している」とし、「今日は調子が良く、いい歌いっぷりだ」と思ったら加点して4点にし、「素晴らしい熱唱で、情景がまざまざと浮かぶ」と思ったなら5点に評価する。「今日は不調だな」なら2点、「下手な歌いっぷりだ」と思ったなら1点。口パクは「歌っていない」から0点。

 演出の評価は、振り付けや踊り、衣装などを対象とし、3点を「プロとしての華やかさや楽しさを醸し出している」とし、いいと感じた度合いに応じて1点ずつ加点する。お粗末な演出だとか、演出が歌を邪魔していると感じたなら度合いに応じて1点ずつ減点する。

 聞く側の主観による評価なのだから、同じ歌手に対する評価でも見るたびに揺れ動こうし、容姿なども加えると評価は偏ってこようが、それも聞く側の個性の表れ。口パクが0点などと評価に少し共通性を持たせるものの、共通の評価基準を増やすと面倒さが増すだけ。聞く側の好き嫌いでパッと評価するというのが、この評価法の面白味だ。