望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり




英音楽の強み

 2012年のロンドン五輪の閉幕式にはクイーン、ザ・フーが登場し、ほかにも若手や中堅のバンドや人気歌手らが次々と登場、歌い、演奏した。「イマジン」の時にはジョン・レノンの大きな顔がステージ上に作成された。開幕式でも多くのバンドやシンガーが登場し、最後にポール・マッカートニーが「ヘイ・ジュード」を歌うなど、多くのブリティッシュ・ポップ/ロックの曲が流れた。



 五輪が始まった頃、NHK-FMで終日のブリティッシュ・ロック特集があり、1960年代、70年代の懐かしいバンドの曲が次々に流れた。多彩なバンドの曲が、今や豊富な財産となっていることを痛感させられた。



 ブリティッシュ・ロックは英の外貨獲得に貢献したのだろうから自国の財産だと英が誇り、ロンドン五輪をチャンスに世界にもっとアピールしようとの思惑があっても不思議ではない。製造業はとっくに衰退し、頼みの金融業も当時、ユーロ危機やLIBOR不正疑惑で先行き不透明とあって、英が稼げる分野として、競争力がある音楽に目を付けるのも無理からぬところ。



 単なる懐メロ感が希薄であることもブリティッシュ・ロックの強みだ。与えられた曲を歌うのではなく、自分らで曲を作り、演奏する方法論やロックという音楽表現がまだ新しさを保っているということかもしれない。同時代の日本の歌手らが、懐メロ特番が似合うようになって久しいのとは大きく異なる。



 ブリティッシュ・ロック/ポップの強みは、英語という世界「共通」語を駆使していることだ。巨大な米市場に入り込みやすく、米での認知が広まると世界展開もしやすくなる。英語を解する人が世界で増えていることを利用し、今回の五輪で、「昔の名前で」出ているベテランバンド・歌手を再認知させつつ若手の周知も進めるという戦略なら、したたかだと言わざるを得ない。



 ただ音楽は国籍にはとらわれない。ビートルズを始めとしたバンドが生み出した音楽は、米を始め世界に広がった時点で、世界各地のファンのものともなった。ブリティッシュ・ロックだって、米の黒人音楽が英に届かなければ誕生しなかったのだから、音楽に国境などは関係ない。商売となると話は別だが、曲の販売を増やして英が儲け、ファンは音楽に喜ぶのだから、貪欲な金融業よりはマシか。