望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

民意を示す

 国家権力を握っている人たちは民意が明確に示されることを嫌い、恐れる。自分たちの意のままに権力を行使することが、民意が示されることによって制約され、時には自分たちが民意に反していると明らかになったりして、権力を担う正当性が失われると退場に追い込まれたりするからだ。

 スペインからの分離独立を求めるカタルーニャでは住民投票が過去2回行われ、圧倒的多数が独立に賛成したが、スペイン政府は独立を認めず、カタルーニャ自治権を停止し、最高裁判所住民投票に関与した州政府幹部らに禁固刑を言い渡した。住民投票を否定することで民意を無かったことにする手法だ。

 英国のEU離脱に反対するスコットランドでは2014年、住民投票で英国からの独立を問い、英国残留支持が55%となった。だが、英国のEU離脱が現実となり、2回目の住民投票を求める声が高まっているという。英ジョンソン首相は住民投票実施に反対で、スコットランドの人々の民意を聞かないことで連合王国の統一を守ろうとしている。

 台湾では総統選挙で現職の民進党蔡英文総統が得票817万票(得票率57%)で親中国の国民党候補に圧勝し、立法院議席でも113議席中61議席過半数民進党が獲得した。台湾は中国の一部だと主張する中国共産党政府は台湾での選挙に様々な方法で影響力を行使したと見られているが、「一国二制度」の実態が香港で露わになったこともあり、台湾の独立状態を支持するとの民意が示された。

 その香港は「一国二制度」により中国の特別行政区とされ、行政長官や立法会(議会)の選挙では立候補に制限があり、中国共産党政府に批判的な人物は立候補できない仕組みだ。「一国」=中国共産党政府の独裁という仕掛けだから、自由選挙などは論外となり、民意を問う住民投票は、おそらくスペインよりも遥かに過酷かつ強力に封じ込まれるだろう。

 だが香港の人々は区議会議員の選挙を民意を示すために利用して見せた。18ある区議会には政治的な権限がないが、立候補に制約が少なく、全479議席のうち452議席が直接選挙で選ばれる。2019年11月に行われた選挙では民主派が388議席を獲得し、親中派は完敗となった。抗議デモで示されたのも民意であり、自由選挙に擬した区議会議員選挙で示されたのも民意だった。

 台湾と香港で相次いで、中国共産党が独裁する政府に対して否という民意が示された。スペインも英国も中央政府に不都合な民意は聞かない姿勢だが、中国は共産党政府が統御できない民意の存在を否定する。だが、政府にコントロールされる民意というものに何の価値があるのか。政府の言いなりに動く民意はプロパガンダの補助役でしかない。