望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

ジャズとは何か

 カフェやレストラン、居酒屋など飲食店で、小洒落た雰囲気を演出するための道具としてBGM(背景音楽)によく使われるのがジャズだ。ジャズといってもスタイルは多彩で、ムード音楽に近いものからハードバップ、クール、フリー、フュージョン、ファンクなど様々あるが、飲食を楽しむための演出だから、心地よさを来店客に感じさせるようなものが選ばれる。

 ジャズは熱心なファンが愛好する音楽とのイメージが過去にはあったが、今では特別な音楽とのイメージは薄らいでいるようだ。関心を持つ人が増えてブームになっているわけではないが、都市部ではライブを聴くことができる店が増え、飲食店のBGMなどでジャズに興味を持った人も生のジャズ演奏に触れることが容易になった。

 そうした半面で、ジャズを嫌いじゃないけれど、どういう音楽であるかを知らない人が増えているといい、ミュージシャンが即興で演奏していることを知らない人もいるとか。楽しんで聞いているのなら、それで構わないのだが、ジャズの世界の広さ、奥深さを知らないのはもったいない。

 ジャズの大半は器楽だ。クラシックも同様だが、主に使用する楽器が、ジャズでは金管楽器とリズム楽器であり、弦楽器が主になるクラシックとは異なる。最大の違いは、クラシックが楽譜に忠実に演奏するのに対し、ジャズでは何かの楽曲を使い、そのコード進行に基づいて即興で演奏することだ。テーマの演奏ではジャズでも譜面を重視して演奏するが、ソロパートでは銘々が即興で演奏する。

 例えば、カウント・ベイシー楽団の「ワン・オクロック・ジャンプ」はD♭メジャーのブルーズ進行(12小節)の曲で、コード進行は<D♭/D♭/D♭/D♭7/G♭7/G♭7/D♭/B♭7/E♭m7/A♭7/D♭/D♭>となる(/の区切りがそれぞれ小節を示す)。このコード進行に乗ってミュージシャンは音を選んで演奏する。

 人と音楽の長い歴史の中から、聞いていて違和感がないようなコード進行のパターンがいくつも誕生し、それらの組み合わせが大半の曲に含まれる。例えば、Ⅱm7ーⅤやⅠーⅥmーⅡmーⅤ、ⅠーⅢmーⅣーⅤ、ⅢmーⅥmーⅡmーⅤ、ⅣーⅢmーⅡmーⅤなど。そうしたコード進行に出合うとミュージシャンは得意のフレーズを決めたりする。

 モードやフリーはコード進行の「縛り」を脱して、もっと自由にミュージシャンの意のままに演奏することを目指したもので、即興演奏の表現の可能性を大きく広げた(聴いていて耳に心地よいと感じるかどうかは人それぞれだが)。

 ミュージシャンが何をやっているのかを理解しないでジャズを楽しむこともできようが、コード進行も意識して聴くと、ミュージシャンがソロでやっていること・やろうとしていることなどが浮かび、ジャズはもっと面白く聴くことができる。