望潮亭通信

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温暖化という葵の御紋

 オーストラリア南東部で大規模な森林火災が続いている。昨年9月から多数の森林火災の発生が相次ぎ、懸命な消火活動も火災の勢いを止めることができず、焼失面積は1000万haを超え、住宅2000棟以上が焼失し、死者は26人にもなっている。乾燥と強風が森林火災を拡大させたという。

 この大規模な森林火災について米ニューヨーク・タイムズ(NYT)は、豪モリソン首相を「気候変動と同国の極限環境条件の関連性を最小限に評価してきた。同首相は炭鉱の閉山要求を『無謀』だとして冷笑し、経済的利益と強力な圧力団体への忠誠を優先してきた」などと批判する記事を掲載した。

 森林火災が拡大する中で昨年12月、モリソン首相は休暇をとってハワイに行っていたことがオーストラリア国内で強く批判されていたので、NYTのモリソン首相の対応遅れ批判は妥当なように見える。だがNYTの批判は、モリソン首相が温暖化抑制政策に消極的なことに向けられ、大規模な森林火災と結びつけて地球温暖化アピールに利用してみせた。

 世界各地で気温が上昇傾向にあることは各種の気象データで示されている。だが、気温上昇が森林火災や山火事を起こすとしたなら、地球の全域でもっと多くの森林火災や山火事が起きるはずだ。だが、大規模な森林火災や山火事が発生する場所は北米西部や欧州南部、豪など特定の地域に偏っている。乾燥状況や強風などが関わっている気配だ。

 温暖化で森林火災や山火事が増えたと主張されると、つい、樹木や雑草などが自然発火するイメージにつながる。だが、例えば木材は「約180℃を超えると木材成分の熱分解が始まり、可燃性ガスを放出し始め」「約250℃程度に達した状態で、火源を近づけると引火」し、「約450℃に達すると、火源が無くても発火」する(法科学鑑定研究所サイトから)。立木なら水分量はもっと多く、また、気温が100度を超えたというニュースはない。

 燃焼には可燃物と酸素、点火エネルギーが必要となる。森林火災や山火事を発生させる点火エネルギーの代表は落雷だが、インドネシアやアマゾンなどでは農地開発目的の多くの火入れが森林火事や山火事を引き起こしているという。今回のオーストラリアの大規模な森林火災でも人為的な放火が疑われている。

 豪ニューサウスウェールズ州の警察が、意図的に火災を起こしたとして24人を検挙したと報じられた。昨年11月以降、火災関連で少年40人を含む183人に対し、警告から刑事訴追までの法的措置を取った(うち53人は火気厳禁の指示に従わず、47人は火のついた煙草やマッチを地面に捨てた)。栽培している大麻を守ろうと森林火災に向けて「迎え火」をし、それが新たな森林火災を招いて逮捕された人もいる。

 NYTは、気候変動を軽視するモリソン首相を批判するが、今回の大規模な森林火災の発火の検証は行わない。温暖化により乾燥状態がひどくなる可能性はあるが、森林火災や山火事を発生させた点火エネルギーは何だったか具体的に調査・検証することで温暖化との関係がはっきりするだろう。気候変動と安易に結びつけて考えるから事実検証が等閑になり、温暖化という「葵の御紋」を振りかざして御高説を垂れてしまうと見える。