望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

嗚呼、インターナショナル

 ♫立て、餓えたる者よ〜〜と歌い出し、♫いざ、闘わん、いざ、奮い立て〜〜嗚呼、インターナショナル、我らがもの〜〜などと歌う「インターナショナル」。フランスで誕生したこの歌は労働歌として世界に広がり、日本でもかつて労働組合運動が活発だった頃に盛んに歌われたという。

 闘争意欲を鼓舞する歌だが、労働者が闘うには団結と連帯が欠かせない。労働者1人では会社(資本)に対して、あまりにも無力なのが現実だから、労働組合に結集することが必要になる。とはいえ、日本では企業別の労働組合が会社の利益を尊重して「自重」するのは珍しくなく、闘わなくなって久しい。組織率も下がり続け、闘争意欲を鼓舞する歌はすっかり忘れられた気配だ。

 米国ではGMに対してUAW全米自動車労働組合)が40日間もの長期ストライキで闘い、工場を操業停止に追い込み、新たな労働協約を結んでストは集結した。新協約では、昇給と正社員1人当たり1万1000ドルのボーナス、非正規従業員の正社員登用の迅速化などが認められ、医療費の自己負担率引き上げは撤回されたというから、闘った労働者側の勝利だ。

 企業別組合ではなく産業別組合が主体になるから企業に対する交渉力が強くなる。労働者が団結するのは交渉力を高めるためなのだから、個別企業の組合より産業別組合のほうが規模が大きくなり、労働者の利益になる。ただし、大規模な組合でも闘おうとしない組合があって、個別企業の内部留保の増大を許す。

 巨大化した多国籍企業が国境を越えて世界で展開するというグローバリズムを支える条件の一つが、各国の賃金格差だ。米国内で団結した労働者が、中国など低賃金の他国の労働者とも団結するならば、巨大化した多国籍企業に対しても交渉力を持つことができようが、国境を越えた労働者の団結は見えない。

 多国籍企業は国境を越えて工場を移転させる。各国の労働者に共通する利害が少なく、むしろ利害が対立する構図がグローバリズムであるなら、国境を越えた労働者の団結は望み薄だ。社会主義共産主義の衰退・退場とともに「万国の労働者よ、団結せよ」とのスローガンも色あせ、各国で労働者は競わせられている。

 ♫聞け、我らが雄叫び、天にとどろきて〜〜劣悪な条件で働かされている人々は世界にはまだ多く、待遇改善や権利要求などは人々がそれぞれ団結して闘争で勝ち取るしかないだろう。インターナショナルを「我らがもの」にできなかった万国の労働者にとって、「インターナショナル」の出番はなさそうだ。