望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

タレントに興奮する人々

 タレントが街歩きする番組は珍しくない。飲食店を訪ねて名物料理などを食べて大げさに「美味しい」などと誉めそやしたりする。タレントが撮影交渉する姿を入れることで、「仕込み」ではないことをさりげなく強調したりする。

 タレントが歩くのは都会の商店街であることが多いようだが、地方都市や観光地に行って歩くこともある。出会った人々と、どれだけ軽妙に会話することができるかがタレントのウデの見せ所らしく、そうしたやり取りに視聴者もタレントに親近感を持つのだろう。

 タレントの街歩き番組は、スタジオにセットを組んで収録する番組より低予算だろうことは想像に難くない。タウン誌や観光情報誌などで事前に撮影場所を選び出し、大まかな構成を決めておけば、あとは実際にタレントを歩かせて撮影するだけ。

 そうした街歩き番組で、タレントを街中で見た人々が歓声を上げ、興奮した様子でタレントの周囲に集まってくる場面がある。そのような状況が実際にどれほど起きているかはともかく、そうした場面は番組中に数回は必ず挿入される。

 タレントを見て人々が興奮するのはなぜだろうか。人々はテレビ画面を通じて頻繁に見ているからタレントに一方的な親近感を持っているのだろうが、「知り合いと出会った」以上の喜びを、タレントに出会ったときに人々は感じているようにも見える。

 熱心なファンなら当のタレントに出会って興奮するのは当然だろう。だが、街歩き番組でタレントを見て興奮した様子の人々は、熱心なファンというより、テレビで見ていたタレントが目の前にいることに反応しているようだ。

 そうした人々はおそらくタレントを特別な存在とみなしているから、タレントを見て興奮するのだろう。何が特別かというと、テレビに出ることができるという「特権」を有していることか。特別な才能など感じさせないが、軽妙なやり取りや嫌われない人間味を備えていると感じさせてタレントは人気を得ているのかもしれない。

 テレビ番組の収録中という状況も人々を興奮させている気配だ。東京の繁華街などで私用で歩いているタレントを見かけても大騒ぎする人は少ないようだから、タレントがタレントである時=テレビ番組に出ている時(収録中)のタレントに人々は興奮するのか。