望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

街歩き番組

 住んでいる街でも、通ったことがない道はあり、そんなところに紛れ込んだりすると、初めて見る風景が新鮮だったりする。いつも歩いている道でも、こんな店があったのかと路地に看板を発見して少し驚いたりする。何があるか見てやろうと歩くと、知っていたはずの街にも新しい発見は尽きないかもしれない。街歩きの魅力の一つは、そういう発見だろう。



 街歩きや散歩といっても、タレントが歩くと番組になる……ということでタレントが都内はもとより、全国各地の観光地や街を歩く番組はすっかりテレビの定番となっている。そうした番組では地元の人々との出会いが番組に膨らみを与えるので、地元の人々の個性をうまく引き出せるかがタレントの腕の見せ所だったりする。



 街歩き番組には、東京の下町の商店街を数人のタレントが食べ歩きするだけという、テレビ局は本当に予算が厳しくなったから経費をかけずに短時間で仕上げたんだろうなあと感じさせるものもあれば、海外に行って街歩きする番組もある。もっとも海外に行くのはスタッフだけで、タレントはナレーターを務めるだけというものも珍しくないが。



 旅番組なら、旅先の紹介に重点が置かれ、名所や名店などを取り上げることが欠かせないから、事前の下調べを綿密に行う必要があるだろう。街歩き番組でも下調べは行っているだろうが、ゆるい雰囲気の街歩き番組は多く、人々との出会いやハプニングを想定して、下調べはほどほどで止めている気配があったりする。だから、手際のいい展開になったりすると、ここは台本どおりかと見えてくる。



 街歩き番組の魅力は、人々の日常にテレビカメラやタレントが入ってくるところにある。見知っていたはずの街の風景や商店街、飲食店などや人々がテレビカメラを通すことで印象が違って見えたりし、その街を離れた人ならば懐かしさが募るかもしれない。街歩き番組は情報番組でもある。そこで提供されるのは、こんな人がいた、こんな店があった、こんなものを売っていたなどという人々の日常を構成する情報だ。



 スタジオでタレントがはしゃぐだけのトーク番組よりも街歩き番組は作りもの感が希薄で、ヤラセといえば、飲食店で食べたタレントが「美味しい」「旨い」「柔らかい」としか言わないことぐらいか。ほどほどのドキュメンタリー性を持った街歩き番組は、ある種の健全性を維持している。



 テレビカメラがスタジオから街に出て行くのはいいことだ。タレントと街を散歩するだけではなく、カメラが街ネタを追ったり、地方版のニュースを掘り下げたりしても興味深い番組ができそうだ。ただし、報道のスタンスではなく、軽く面白がる精神でつくること。でも下調べが必要になるので、街歩き番組のように「手軽」には制作できないかもしれないな。