望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり

コソボが抱える闇

 コソボセルビアからの一方的な独立宣言を行ってから10年以上たった。人口の9割以上がアルバニア人というコソボが、セルビア人が多数のセルビアから分離独立したのは自然なことのようにも見えるが、実際は、セルビアに対するテロを続けたアルバニア人組織KLAなどが欧米など西側諸国の支援(武力介入)を得て達成した独立だ。

 もともとコソボにはセルビア人が住んでいたが、徐々に東方へ移住、その後に隣接するアルバニアからアルバニア人が入ってきた歴史がある。セルビア人にとってコソボは民族の記憶(歴史)に関わる土地であり、セルビア人居住者が少数になったとはいえ手放すことはできないものだった。

 コソボセルビアからの分離独立を欧米など西側諸国が支援したのは、民族自決の原理を尊重したからではない。スペインのカタルーニャバスク、英国のスコットランドなど国内に分離独立運動を抱えている国は欧州にもあるのだが、各国は分離独立を認めない。コソボの分離独立は、セルビアが対象だから各国は容認した。

 ユーゴスラビア解体の過程で難民が流出し、戦闘における悲惨さが報じられたが、欧州各国は「無力」だった。一方では、セルビア側の残虐性が強調されて報じられ、「無力」感の裏返しとして各国でセルビアに対する処罰感情が喚起された。コソボ紛争においてもセルビア側の残虐性が強調され、西側諸国の武力介入を正当化しやすくした。

 紛争において当事者の一方だけが残虐で、他方は倫理的であるということはなく、報復の論理がエスカレートすることも珍しくない。だが、どちらも残虐で悪いと見るなら、正義感や人道主義などを刺激されても西側諸国は介入できない。介入するためには、それを正当化する仕掛けが必要になる。

 この種の仕掛けでは、どちらかの側の被害者としての側面を強調することが基本だ。コソボではアルバニア人が被害者で、セルビアが悪いという構図になり、西側諸国の武力介入を容易にした。そしてコソボは西側諸国などの支持を頼りに独立を宣言したのだが、経済は停滞したままで失業率は高く、この10年間に人口の1割が仕事を求めて出国したと伝えられている。

 KLAメンバーらが独立後のコソボの政治を主導したのだが、 KLAは欧州への麻薬流通で資金を得ていたともいわれ、紛争ではセルビア系住民を拉致・殺害し、臓器を売買した疑いも指摘されている。アルバニア人による犯罪組織はアルバニア・マフィアとして名高く、EUで広いネットワークを持つという。独立国のコソボはマフィアにとって楽園かもしれない。