望潮亭通信

無常なる世界を見るは楽しかり





中国の成功体験

 2014年に中国は安倍首相の靖国参拝の後、欧米など世界各国で日本批判を展開した。外相が各国外相と電話会談して「歴史問題」での日本批判への賛同を求めたり、各国の駐在大使が地元新聞に日本批判を寄稿した。そうした言説が繰り返され、蓄積していくなら、日本への批判的認識が、ある程度は現地社会に浸透する可能性がある。



 例えば、中国の駐米大使は記者会見で「安倍氏は歴史を書き換え、再度軍国主義の道を歩みたいと考えている」とし、「安倍首相の考えは米国の立場とも合わない」と“助言”した。さらに米紙に寄稿したり、TVインタビューに出て、「中国やアジアの多くの国の人々を深く傷つけた」「戦後の国際秩序に本気で挑もうとしている」と日本批判を行った。



 中国が国外で日本批判を展開するのは、中国内で反日デモを演じさせると、コントロールが利かなくなり暴走して、共産党独裁政権に矛先が向きかねないようになったことを恐れているからだろう。それに、特に欧米での日本批判は、日本を孤立化させ、日本イメージを低下させると同時に、今の中国が連合国側であるとのアピールにもなる。あたかも欧米と価値観を共有する国が現在の中国であるというような印象操作の効果もあろう。



 中国には成功体験がある。日中戦争の当時、国民党は、米での対日感情の悪化を利用して様々な働きかけをし、米から多額の援助を引き出した。さらに蒋介石の夫人・宋美齢は訪米し、議会で英語で感動的な演説をし、議員や各国大使らを集めたパーティーを催し、全米各地を訪問して、当時の米中共通の敵=日本に対して「人類不変の自由と権利のために戦う」ことを訴え、“救国のヒロイン”として注目を集めた。



 もちろん、国民党の腐敗は知られ、「民主主義について立派に議論はできるが、民主主義的に振る舞うことができない」中国人に対する冷めた見方も米政府内にあったが、戦時下においては“敵の敵は味方”であり、戦意高揚などにうまく利用できるものは利用するのが当然であるから、米政府も宋美齢を大切に遇したという。



 外交で世界の“世論”を有利に誘導することに成功した例としてボスニア・ヘルツェゴビナ政府がある。内戦を、欧米などを巻き込んで「国際化」するため、米の大手PR企業と契約した。西側政府を動かすには、メディアを動かすことが効果的だと、メディア向けに多くの様々な情報発信を続け、彼らはボスニア内戦を大きな国際問題とすることに成功した。



 ボスニア側の視点で作成された大量の情報を提供された西側メディアでは、次第にボスニア側を“被害者”とする報道が増え、一方で、セルビア人勢力に批判的になった。西側の世論はメディアに影響されるが、その西側メディアを自国に有利なように誘導することができることを、ボスニア政府の例は示した。



 中国や韓国が異常な日本批判を執拗に続けているのは、欧米メディアへの露出を増やし、欧米の世論に影響を与えることも狙っているのだろう(米のPR会社と契約しているのかどうかは分からないが)。で、日本はどうするか。日本政府が日本国内で日本語で、いくら説明を繰り返しても、欧米メディアはほとんど取り上げず、世界には伝わらないことは確かだ。